17世紀の料理書というとラ・ヴァレーヌばかりが有名だが、ほぼ同時期のピエール・ド・リューヌ『料理の本』(1656年)も無視出来ない重要なものだ。フランス食文化史の観点からばかりではなく、現代の料理シーンで古典をどう活かすかという点で、とても示唆に富んだ書物と言える。

この本はロアン公爵に仕えた料理長が書いたものと言われている1。「月の石」を意味するピエール・ド・リューヌ Pierre de Lune という名前が本名かどうかはわからないが、1660年には『新・料理の本』、1662年には『完全版メートルドテルのための本』がピエール・ド・リューヌ名義で出版されている。後者は貴族の城館などで行なわれる宴席の総責任者であるメートルドテルの主たる仕事内容、つまり献立と食卓の配置などについての本だが、「スペイン風料理」と題したレシピ集も収録されている。

さて、ピエール・ド・リューヌ『料理の本』はどのレシピもきわめて興味深いものだが、さしあたりラグゥの名称が付いているものについて見ていこうと思う。

仔羊のラグゥ

仔羊は4つに切り分け、棒状に切った背脂をラルデ針で刺し込む。軽く焼き色を付ける。これを陶製の鍋に入れてブイヨンを注ぎ、塩、こしょう、ブーケガルニ、クローブ、マッシュルームを加えて味付けする。火が通ったら、フライパンで炒めた牡蠣、小麦粉少々、アンチョヴィ2尾、レモン汁を加える。薄切りにして色よく炒めたマッシュルームを添える。
Mettez-le en quatre quartiers, le lardez de moyen lard et lui donnez un peu de couleur; le mettez dans une terrine avec bouillon assaisonné de sel, poivre, un paquet, clous, champignons, et quand il sera cuit passez huîtres par la poêle, un peu de farine, deux anchois, jus de citron et par tranche, garni de champignons frits.

肉をブイヨンで煮る前に焼くわけだが、原文は「軽く色を付ける」としか書いていない。4つに切り分けた仔羊それぞれに串を刺してローストするというのは考えにくいので、大きなフライパンに油脂を熱して表面を焼くと解釈していいだろう。

ラ・ヴァレーヌの「仔羊のラグゥ仕立て」と比べると、とろみ付けに小麦粉を使う点は同じだが、ここでは牡蠣とアンチョヴィを合わせているのが興味深い。古い料理書では肉料理に牡蠣を合わせるケースがしばしば見られるが、これもそのひとつ。


  1. Gilles et Laurence Laurendon, «Préface» à L’art de la cuisine française au XVIIe siècle, Payot, 1995, p.XII. 
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