16世紀の『フランス語訳プラティナ』(ラテン語原書 De honesta voluptate は15世紀)をぱらぱらと眺めていたら “Saulce canelline1” が目にとまった。もちろんソース・カムリーヌ sauce cameline のことである。焼いたパンを赤ワインに浸してふやかし、すりつぶしてシナモン、しょうが、ヴェルジュなどを合わせて漉した中世の代表的なソースだ。

この “cameline” という語、TLFi では植物の camelina sativa (和名は甘なずな2というらしい)とソース・カムリーヌのふたつをまとめて説明している。語源については camelina sativa についてしか書いていない。が、ソース・カムリーヌにはその植物 camelina sativa も、それから搾った油も使わない。

だから、ソース・カムリーヌがどういう経緯でその名称になったのかはさっぱりわからないわけだが、なんとなく、cameline は canelle (シナモン)に由来するのではないか、なによりシナモンを使うし…などと思いつつそのままにしていた。

『フランス語訳プラティナ』は以前に目を通したから、あるいはそのときに cameline = canelline と思ったのだろう。m と n は音が似ているからそこそこ説得力があるようにも感じる。こういうのを見つけると、すこしばかり嬉しくなる。

ところが、ラテン語原書のPDFファイルを開いてみたところ、

CONDIMENTVM CAMELLINVM

M である。残念。これは1475年の版だが、1499年版も同様。

ただ、この camelinum というラテン語、Lewis & Short によると「駱駝」を意味する形容詞らしい。駱駝ソースではどうもしっくりこない。Lewis & Shortでは l がひとつの綴りしか出てこないから、見当違いかもしれない。いずれにせよわからなくなってきた。

一般的には語源を調べる場合、ラテン語は終着点というか語源そのものになることが多いが、このケースはどうだろう? ソース・カムリーヌは14世紀の『ル・ヴィアンディエ』や『ル・メナジエ・ド・パリ』にも出てくるわけで、バルトロメオ・サッキよりもずっと古くからあるソースだ。

だから、どうして sauce cameline という名称になったのかを知るために『フランス語訳プラティナ』およびその原書 De la honesta voluptate は史料として的確とはいえない。

結局のところ sauce cameline の語源的なところは不明のままだが、すくなくとも16世紀にプラティナを訳したひとは僕とおなじように cameline = canelline という認識だったのだろうか。


  1. 古いフランス語では sauce をこう綴った。 

  2. なずなはいわゆるぺんぺん草のこと。Wikipediaの画像を見ると、種子の形状こそちがえ、花のつきかたなど、なるほどぺんぺん草に似ている。 

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