野菜生産者としては使い捨てられるよりは無名のままがいいのだが

雑誌の編集者さんから、某有名ハーブ園のはなしをきいた。取材申し込みをしても「新規の取引はできないので、露出はひかえている」と断わられるのだそうだ。

僕の場合、テレビ、ラジオの取材のオファーをいただいたことがあるが、それらはご遠慮申しあげた。が、雑誌については、これまでのところお断りしたことがない。雑誌は校正(といってもたいていは原稿段階での内容チェック)をさせてもらえるが、新聞、テレビ、ラジオはそれをさせてくれない。それだけの理由だ。

いちどだけ新聞の取材をうけたことがあるが、内容をチェックさせてもらえず、きわめて不本意な結果になった。だから、新聞は断わると心に決めたのだが、それ以後まったくオファーがない。断わるというのもそれなりに心に負担のかかることなので、ないに越したことはない。

野菜の産直で生計をたてるなら、営業面でのフットワークの軽さや、それなりの知名度はあったほうがいいのだろうが、前者については僕の場合、絶望的に苦手でどうしようもない。

「露出はひかえている」と言ってみたい気もする。うらやましい。でもそれは有名だからこそのことで、僕のごときにそんなことを言う余裕はない。心情的には有名になりたいとは思わぬが、まるきり世間からうち捨てられてしまっては生活できぬ。雑誌についてはきっとこれからもよろこんで取材をおうけするだろう。

近くで有機農業に取り組んで40年以上になる大先輩は「提携」だけで、その提携先も新規はうけないと言っておられた。提携というのは、僕がやっている産直と似てはいるが思想的な側面がつよいものだ。日本有機農業研究会のWEBサイトから引用すると

「提携」(産消提携、生消提携とも呼ばれる)は、単なる「商品」の産地直送や売り買いではなく、人と人との友好的つながり(有機的な人間関係)を築くなかで進めます。生産者も消費者も、農法を変革するだけでなく、「農産物の選別・包装を簡略化する」、「自主配送を原則にする」、「自給する農家の食卓の延長線上に、都市生活者の食卓をおく」、「間引き菜から董(とう)が立つまで食べる」「一物全体食」などに努めます。消費者も農作業の手伝いなどを通して農業に触れ、農業を理解すること、互恵精神に基づき、話し合って価格 を決めること、学習活動を重視するなど、理想に向かって共に有機農業を実践、自然を大切にした有機農業的な生活をしていくことを説いています。

僕は有機農業の考え方からも大きく影響をうけたから「提携」に憧れはするのだが、僕にとって有機栽培はおいしい野菜をつくるための手段(というよりも技術)であって目的ではない。軽々に真似はできない。そもそも、かたちだけ真似ても意味がない。

だからというのもおかしいが、僕の場合、産直が「単なる商品の産地直送」になってしまいがちなのも事実だ。そうなると、野菜の切れ目が縁の切れ目で、今回のように長いブランクが空いてしまうと、取引先にメールを書いても返事さえもらえぬこともある。過去にも獣害で半年くらいブランクができてしまったことがあるからそれは経験済みだ。

それでも、再建の見通しもつかぬつらい時期にこまめに連絡をくれた料理人さんもいるし、そろそろ再開できそうとブログに書いたら即座に電話をくださったシェフもいる。ほんとうにありがたいことだと思う。「人と人との友好的つながり」は大切だ。

ただ、相手のいることだし、相性というのもある。僕は対人ストレスに弱いからどうしても消極的になってしまう。

せめて僕の知識や語学力をあてにしてもらえばいいかとも思うのだが、これらについては、自分の都合だけで一方的に図々しく僕を利用しようとするひともいるから悩ましい。