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伝説的ともいえる料理人ギヨーム・ティレル通称タイユヴァンは1310年ごろ生まれた。フランソワ・ヴィヨンは『遺言詩集』の8行詩、第131番にこう書いている。
タイユヴァンの本で探すといい
フリカセの章を
ヴィヨンは15世紀の詩人。
ここで引用されている8行詩の大意は「タイユヴァンの本で探すといい / フリカセの章に / すっかりくまなく、裏も表も / 奴らの赤い舌の料理法は出ちゃいないがな / 本当のところ、あのマケールが / 悪魔を毛も毟らずに / 香ばしく焼き上げるやり方を/ 俺に教えてくれたのよ、譬え話抜きだぜ」。
誤解しやすいポイントだが、タイユヴァンに「フリカセ」の章はないし、フリカセは近現代のような白いラグーの意味ではない。中世〜17世紀、フリカセは油脂を用いて肉などの素材を色よく焼くことを指した。いまの料理用語ならリソレやソテに相当する。
詩人が創作の際にタイユヴァンを実際に参照したかどうかはわからぬが、ここでのタイユヴァンは人名ではなく書名であり、すくなくとも15世紀の文学作品にあらわれる程度によく知られたものだったとわかる。