p.XIII(3)
1306年の匿名の著者1と同様、タイユヴァンは、どんな料理でも畜肉、家禽をあらかじめ茹でてから使う。ブルーエ、シヴェ、ラグーは牛のブイヨンにとろみ付けのためのパン2を加えて煮る。砂糖、香辛料、イゾップ、パセリ、セージ、カルダモン3をふんだんに使う。既に湯せんの使用が認められる。あるレシピでは面白い使い方をしている。液体を加えずに鶏を湯せんにかけてたっぷり肉汁を出させ、それを病の床に伏せている者に供するというのだ。ソースはあまりヴァリエーションがない。肉と魚は、煮たものであれ焼いたものであれ、火を通さずに作るソース・カムリーヌか、ミルク4やヴェルジュを加えて火を通して作るソース・ジャンスで食する。ドディーヌ5、どんなに我慢づよいスパルタ人さえもうんざりさせるような6四旬節用フランのごとき料理の一方で、タルムーズ、ブルボン風タルト、卵黄と栗を詰めた仔豚のローストもある。これらは現代でも洗練された味わいと言えるだろう。
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「料理指南」のこと。 ↩
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中世料理で煮汁やソースのとろみ付けにはもっぱらパンが使われた。小麦粉を油脂で炒めて作る「ルー」の技法が成立したのはずっと後の時代ということに注意。 ↩
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原文 cardamome をそのままカタカナにしたが、タイユヴァンでよく使われる graine de paradis グレーヌ・ド・パラディつまりマニゲット(ギニアショウガ)をカルダモンと誤認していると思われる。 ↩
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ここではあえて「ミルク」と訳したが、中世料理において単に lait と言った場合、アーモンドミルクもしくは牛乳(あるいは羊や山羊の乳)のいずれもあり得る。 ↩
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中世において非常に好まれた鴨などの水鳥用ソース。『ル・ヴィアンディエ』では3種挙げられている。ゲガンはpp.XVII-XVIIIの原注2でレシピを引用している。 ↩
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忍耐づよく質実剛健というのが古代スパルタ人についてのステレオタイプなイメージ。ここでスパルタ人云々の比喩を用いているのは「途方もなく不味い」という意味。ただしこれは、あくまでも近代的味覚に基づいたゲガン個人の判断であることに注意。この「覚書」で、ゲガンはしばしば学術的客観性よりも表現者としての感性を優先させた記述をしている。 ↩