p.XVIII(10)=p.XIX(1)
ルイ9世1の妃マルグリットの母、ベアトリクス・ド・サヴォワの求めにより、1256年、医師アルドブランディーノ・ダ・シエナが『健康を保つための本』を著した。これは内容を改変され、1480年にリヨン2で出版された3。著者名は「フランス国王の侍医アルドブランダン師」となっていた。この本では、香辛料の利用が強く薦められている。 「ガランガルは3番目に熱くて乾いたもの4だ。赤くて新しい、重みがあるのを選ぶ。口に入れると舌を刺すような風味があり、体力をつけさせる。特に胃の働きを強くする。肉料理にいい。クミンは2番目に熱くて乾いたものだ。生育旺盛な草の種子で、5年は保存できる。腸内にたまったガスを解消し、利尿作用がある。粉末あるいはソースに用いれば胃の働きを強くする。さらに、クミンと乾燥いちじくを入れて加熱したワインを飲めば、腺病による咳に効く。また、ひどい腹痛にも効く…」
p.XIX(2)
「フランス国王の侍医」が香辛料についてこのように書き、多くの病気に対して香辛料を薬として処方していたのだから、料理人たちが料理に香辛料を加えることをためらう理由などあっただろうか?
-
1214〜1270年。 ↩
-
リヨンは15世紀中頃に活版印刷技術がもたらされてから約1世紀の間、出版業が盛んだった。ルネサンス期に刊行された書物には、リヨンの出版社によるものが非常に多い。参考…宮下志朗『本の都市リヨン』晶文社、1989年。 ↩
-
Le livre pour la santé du corps garder et de chacun membre, pour soi garder et conserver en santé , composé à la requête du roi de France, par maître Aldebrandin, Martin Huss, 1480. Gallica ↩
-
熱く乾いたもの…ヒポクラテスの四体液説に基づく。熱くて乾いたもの=黄胆汁質(怒りっぽさ、火)、冷たくて乾いたもの=黒胆汁質(憂鬱、土)、冷たくて湿ったもの=粘液質(冷静沈着、水)、冷たくて乾いたもの=血液質(楽天的、空気)。これらのバランスをとることで健康を保つという。ただし、この考え方は現代医学では完全に否定されている。 ↩