Facebookに投稿したものの再掲です。
オーギュスト・エスコフィエ(1846 〜 1935)、近代フランス料理最大の偉人です。でも「昔のえらい人」くらいのイメージしかないかもしれませんね。ましてやその著書『料理の手引き』となると……「えらい人が書いたすごい本」。そりゃ間違いなくそうですが……
なんでこの本がすごいか? たんにレシピを集めて並べただけの本じゃない、フランス料理を「体系化」したからです。後にも先にも、ここまで徹底しているものはありません。逆に言うと、フランス料理を体系的に勉強するにはいまもこの本をマスターするしかないわけです。
体系化=システムの構築ですから、とにかく無駄がありません。同じ説明、記述の繰り返しをとにかく避けます。これはすでに説明したからここでは繰り返さない、みたいな文が何か所もあります。それはつまり、理解したかったら別のページを参照しろ、ってことです。そういうのが5000におよぶレシピと解説全体で徹底しています。
体系化が端的に表われているのがソースです。まず「フォン」(だし)が数種類あります。それにルーなどを加えてソース・エスパニョルやヴルテ、ベシャメルのような「基本ソース」が作られます。基本ソースにいろいろな調味料、アルコール、野菜などを足すことで「派生ソース」が作られます。このシステムをスッキリ仕上げたのがエスコフィエなんです。それ以前の料理書でもソース作りをシステマティックにしようとしている形跡はあるんですが、エスコフィエはその完成形です。
いま日本の料理書はどちらかというと写真集みたいなのが多いと思います。ある料理のページならそこを読むだけで料理が作れるようになっている、つまりそれぞれ独立したレシピが順に並んでいることでしょう。とっつきやすいのは確かですが、教科書としてみるなら非効率この上ないんです。応用、展開するための発想、考え方を身に付けさせる意図はあんまりないんだと思います。
そういう意味で『料理の手引き』は、フランス料理、というか近代以降の西洋料理を「体系的に」学ぶための唯一無二といっても過言ではないと思います。
ただレシピを並べただけの本ばかりで学ぶか、体系的に学んで応用力、展開力を身につけるか……この差は大きいでしょう。