上級編である。フランス語初心者は読まないように。

そこそこフランス語でレシピが読めるひとでも、100年あるいはそれ以上昔の料理書となると尻込みすることが多いようだ。

だが、楽なものばかり読んでいても、いっこうに語学は上達しない。あるところで思いきって多少は「難しい」ものに挑戦してみることも必要だろう。身体的トレーニングとおなじで、適度な負荷はレベルアップへの近道なのだ。

というわけで、はたしてそんなニーズがあるのかどうかさっぱりわからぬが、17世紀の料理書の読みかたをすこし解説してみようと思う。僕としては、料理のアイデアの宝庫だと思っている。現代と違ってあまりかっちりとレシピが書かれているわけではないが、かえって想像力がかきたてられるかも知れない。

いまはそういった古い本がPDFなどの電子データとして、WEBでかんたんに入手できる。恐れることはない。17世紀はアカデミー・フランセーズが設立され、フランス語の整備が国家の一大事業としておこなわれた時代だ。それ以後、フランス語文法は大きな変化がない。つまり、17世紀フランス語は古語ではない。ほぼ現代フランス語とおなじと見なされている。

現代と違う活字、綴りさえ覚えてしまえば、19世紀のカレームあたりより読みやすい本はいくつもある。それに、綴りが違うといっても、日本語の旧仮名ほど複雑ではない。

sとfの活字がそっくり

さっそく、ラ・ヴァレーヌの『フランス料理の本』1651年版の本文冒頭を見てみよう。

la_varenne_le_cuisinier_francois_1651-017

赤で囲った文字はどう見ても f と思われるかも知れないが、どれも s だ。f は青で囲っておいた。困ったことに、いまとおなじ s もある。つまり、s の活字が2種類あり、そのうちのひとつは f とそっくりということだ。

u と v が入れ替わっていることがある

フランス語の先祖であるラテン語では u と v はおなじ文字だった。その名残りともいうべき現象だ。つぎの画像では u と v を逆に読むべきところを赤で囲っておいた。

la_varenne_le_cuisinier_francois_1651-017b

oi は ai と読むべきことがある

おなじページだとひとつしか出てこないので画像はなし。3行目の FRANÇOIS は FRANÇAIS と読む。

ほかにも、アクサンがあったりなかったり、アクサンの替わりに s が書かれていたりなど、現代と綴りが違う語はあるが、いくつか読んでいれば慣れると思う。

というわけで、画像のページを現代綴りになおしてみよう。はじめは紙に書いてみるといいだろう。まず自力でやってみてから、下記で答え合わせするといい。

LE CUISINIER

FRANÇAIS

ENSEIGNANT LA MANIERE

de bien apprêter et assaisonner

les viandes, suivant les quatre saisons

de l’année, comme elles se

servent à présent en la table des

Grands.

La manière de faire le bouillon pour la

nourriture de tous les pots, soit de

potage, entrée, ou entremets.

Vous prendrez trumeaux derrière

de cimier, peu de mouton, et

quelques volailles, suivant la

quantité que vous voulez de bouillon,

さいしょは難しく感じても、慣れればすいすい読めるようになるから心配ない。

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