「ほうれんそうとスモークサーモンのキッシュ」と「キッシュ・ロレーヌ」の材料表は訳してみただろうか? これはたんなるブログの投稿だから、訳をやっていなくても何の不都合もないわけだが、漫然と眺めているだけではほぼ絶対に語学は上達しない。独習はこういうところに陥穽がある。
「ほうれんそうとスモークサーモンのキッシュ」
- 1 pâte brisée
- 3 oeufs
- 10 cl de crème fraîche épaisse
- 350 g d’épinards
- 80 à 100 g de saumon fumé
- 100 g ou plus de fromage râpé (type gruyère)
- 2 cuillères à soupe de beurre
- sel et poivre
- ブリゼ生地…1
- 卵…3個
- クレームエペス…100ml
- ほうれんそう…350g
- スモークサーモン…80〜100g
- おろしたチーズ(グリュイエールタイプのもの)…100g以上
- バター…大さじ2
- 塩、こしょう
crème fraîche épaisse
crème fraîche épaisse (クレームフレッシュエペス)は crème (クレーム)が女性名詞、fraîche (フレッシュ)と épaisse (エペス) はそれぞれ形容詞で、女性形になっているということはすでに説明した。が、frais (フレ)/ fraîche (フレッシュ) と épais (エペ) / épaisse (エペス)の意味などははっきり書かなかった。
というのも、crème fraîche épaisse という3単語でひとつの名称となっているからだ。たんに crème épaisse (クレームエペス)ともいう。生クリームの一種だが、乳酸発酵させたもので、やや酸味がある。サワークリームとよく似たものだが、サワークリームは crème aigre (クレームエーグル)といって別にある。
とはいえ、frais / fraîche と épais / épaisse の意味は気になるだろう。frais / fraîche は「フレッシュな、新鮮な、冷たい、涼しい」 épais / épaisse は「濃い、厚い」だ。
つまり、「濃い生クリーム」というわけなのだが、濃いといっても粘度はあるが、乳脂肪は30%以下。醗酵しているから固形分が多い。だから、いっそのこと「クレームエペス」で覚えてしまったほうがいいだろう。そもそも日本では見かけないものだ。
ちなみに、日本で一般的な生クリームと同様のものは crème liquide (クレームリキッド)という。
ほうれんそう
日本では、ほうれんそうは軸も含めて料理するが、伝統的なフランス料理の文脈では、葉だけを使うのが一般的だ。フランス語と直接関係ないことだが、大事なポイントなので覚えておくといいだろう。
さて、フランス語だが、épinards (エピナール)という語は母音ではじまっている。母音というのは「あいうえお」の音のことだ。重さを表現するのに
数 + 重さの単位 + de + 食材
のかたちをとるわけだが、ここで使われている de という語は母音ではじまる名詞と一体化するというおかしな性質を持っている。だから d’épinards (デピナール)となっている。
なお、食材としての épinards は、ここでも語の最後が s であることからわかるように、複数形だ。このことも頭に入れておくといいだろう。
ラペ
上の訳では「おろした」という日本語にしたが、「大根おろし」とか「おろし金」のイメージだとちょっと(かなり?)違う。画像のような器具をつかうので、グリュイエールなどは細かい棒状になるのが普通だ。
ここで用いられている râpé (ラペ)は「râpe (ラップ)という器具を用いておろした」の意味で、かならずしも粉々に粉砕された状態をいうわけではないことに注意。たとえば carottes râpées (カロットラペ)。日本でも「キャロットラペ」と呼ぶことはめずらしくないように思うが、これを「おろしたにんじん」と日本語で理解するとあまり具合がよくないだろう。ついでに、carottes は女性名詞複数形だから、形容詞 râpées も女性複数形になっていることに注意。
キッシュ・ロレーヌの材料表
- 2 tranches de jambon blanc
- 200 g de lardons
- 4 oeufs
- 3/4 d’un pot de crème fraîche
- 1/2 litre de lait
- une pâte brisée
- ハム…2枚
- ラルドン…200g
- 卵…4個
- 生クリーム…3/4パック(150ml)
- 牛乳…1/2リットル(500ml)
- ブリゼ生地…1
数 + tranche + de + 名詞
tranche (トロンシュ)は「スライスしたもの」のこと。とはいえ、ハムやパテドカンパーニュのようなものをそこそこぶ厚く切った場合もこの語を用いる。もちろん、生ハムを向こう側が透けるくらい薄くスライスした場合も tranche という。
tranche は女性名詞なので、1 tranche は une tranche (ユヌトロンシュ)とも書く。
ハム
jambon (ジョンボン)ハム、は jambe (ジョンブ) 足、が語源。だから豚腿がふつうだ。jambon blanc(ジョンボンブロン)はごく一般的な加熱ハムのこと。なお、jambon は男性名詞。
塩漬け豚バラ肉を拍子木に切ったもの
lardons (ラルドン)は「塩漬け豚バラ肉を拍子木に切ったもの」のこと。燻製したものと、そうでないものがある。燻製したものは lardons fumés (ラルドンフュメ)という。燻製といっても冷燻だから火は通っていないし、燻香もさほど強くないのが一般的だと思う。だからこれを「ベーコン」と同一視するのは個人的に大反対だ。
ふたたび生クリーム
「ほうれんそうとスモークサーモンのキッシュ」では、crème fraîche épaisse (クレームフレッシュエペス)= 半固形状の「クレームエペス」が出てきた。こんどは épaisse がない。
ふつう、crème fraîche (クレームフレッシュ)とだけ言う場合は、crème liquide (クレームリキッド)つまり液状の生クリームを意味することが多い。
pot (ポ)はもともと円筒状の容れ物や鍋、壺のことだが、イメージしやすいようここでは「パック」と訳してみた。生クリームのパックは20clつまり200mlのものと50cl=500mlのものがあるが、20clのほうが一般的らしい。
une pâte brisée
「ほうれんそうとスモークサーモンのキッシュ」では 1 pâte brisée と書いてあった。une pâte brisée (ユヌパートブリゼ)でもおなじことだ。このように「1」 は綴りで書かれることも多いのでしっかり覚えておきたい。
- un (アン)+ 男性名詞
- une (ユヌ)+ 女性名詞
次回、まったくの初心者がフランス語で書かれたレシピをすらすら読めるようになる連載(4)レシピの文の基本パターン、動詞で「ほうれんそうとスモークサーモンのキッシュ」の作業手順のパートについて説明していこう。