前回につづけて、ラ・ヴァレーヌ『フランス料理の本』1651年版を題材にする。

ビスクというと、現代ではエクルヴィスをはじめとする甲殻類のポタージュのことだ。が、そもそもは鳩などの鳥類の煮込み料理を意味した。bisque という語の初出はマレルブという詩人の著作らしいから、ラ・ヴァレーヌよりも数十年遡る。

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さて、まずは前回の復習。

z は s と基本的に等価

2行目の nettoyez と troussez はそれぞれ、nettoyés, troussés だ。だから、ez = és の場合があるとしてもいいのだが、もうすこし汎用性を持たせて、z = s と覚えておくのがいいだろう。そもそも z と s の発音(ズとス)は濁っているかいないかの違いしかないわけだし、この2つの文字を並べたら対称形(鏡あわせ)になるのだから、文字としては仲間というか兄弟みたいなものだ。

i = j のことがある

そもそもフランス語の先祖であるラテン語に j の文字はなかった。ジュリアス・シーザー(フランス語だと Jules César ジュール・セザール)はラテン語表記で IULIUS CAESAR (ユリウス カエサル)だ。そう、i と j の字も兄弟みたいな関係にあるのだ。現代イタリア語では j のことを i lunga (イルンガ=長い i)と呼ぶ。

そのせいだろう、17世紀の本では je が ie となっていることはとても多い。この「仔鳩のビスク」のレシピだと下から2行目の ius は jus のことだ。

ただ、この本でもふつうに jus と綴られている箇所はすくなくないので、混在しているというのが実態だ。

現代フランス語の綴りにしてみる

I. Bisque de pigeonneaux

Prenez vos pigeonneaux, après qu’ils seront nettoyés et troussés, faites les blanchir, et les empottez avec un petit brin de fines herbes, et emplissez votre pot du meilleur de vos bouillons, empêchez bien qu’il ne noircisse, puis faites sécher votre pain et le faites mitonner au bouillon de pigeon, puis dressez après qu’il est bien assaisonné, la garnissez des pigeonneaux, crête, ris de veau, champignons, jus de mouton, puis pistaches, servez citron.

すこし補足

trousser (トゥルセ)はエクルヴィスのはさみを背に刺すことだけでなく、鳥類の足を糸と針をつかわずにまとめることもいう。わき腹に切れめを入れて、そこに足先を差しこむ。

faites sécher votre pain は、パンを焼くこと。これを煮汁に入れ,弱火でことこと煮てとろみをつける。

champignons (この場合は champignons de Paris いわゆるマッシュルーム)は17世紀の流行食材。メロンを栽培する際に地温を高くするために厩肥を地面に敷きつめることが古くからおこなわれていた。その副産物としてマッシュルームの栽培技術が確立、普及した。