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淡水魚は水煮し、ソース・ヴェルト1を、寒い時期はマスタードを添える。うなぎは現代のマトロートの原型ともいうべき「サラジネ」にする。「うなぎを用意する。皮を剥き切り分ける。塩をして油で炒める。固くなったパンと砂糖をすり潰し、ワインとヴェルジュ2を加える。これをうなぎの入った鍋に投入して煮る。シナモン、ラヴェンダー、クローヴをすり潰してヴィネガー少々でふやかしてから鍋に入れる。しっかり蓋をして(煮る)、火から外す」。

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著者の嗜好はこの時代としては悪いものではなかった. この本に出てくるブラン・ドゥシェ3や鶏のコミネ4、ブラン・マンジェ5、刻んだ肥鶏肉たっぷりのイギリス風の繊細なブルーエ6などは、味付けを少し変えれば現代でも受け容れられるものだろう。その技量と、多くの宴席で勝ち得た成功に裏打ちされた自信から、著者はこの教本の最後に次のように言い切る。「立派なお屋敷に勤めたい者は誰でも、この巻物7に書かれていることを全てを頭に入れなければならない。さもなくば屋敷の主人の意に沿える仕事は出来ない」。

ようやく料理の特徴などに触れたところだが、「料理指南」についてのゲガンの記述はここまで。「料理指南」はそもそも短い文章だし、ゲガンが書いているのは中世から19世紀までのフランス料理の歴史についての「覚書」だから、始めから足踏みするわけにはいかぬのだろう。

とはいえ、「料理指南」は非常に重要な文章だし、実際の料理をイメージしながら読むのはとても愉しいものだ。現代フランス語訳(原文との対訳)がネットで読めるのでリンクしておく。


  1. すり潰した麦の若葉を用いた緑色のソース 

  2. 未熟ぶどう果汁。17世紀以前は調味料として多用された 

  3. 鶏のブラン・マンジェに似た料理 

  4. クミンで香りをつけた煮込み 

  5. 中世のブラン・マンジェは仔牛や鶏肉を煮込んでゼリーで固めたもの 

  6. ブルーエは中世の代表的な煮込み料理 

  7. 羊皮紙、犢皮紙の手稿本のなかには、日本の古い書物と同様に巻物の形態をしたものもあった。この「料理指南」が含まれている手稿本 F. lat. 7131 は巻物ではないので、この記述から、オリジナルではなく写本である可能性が高いと考えていいだろう。