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オリジナルの手稿本(原注1)では、グリゼリディスの物語1、ジャン・ブリュイヤンによる富と貧困についての長詩の後に、とても念入りに書かれた料理のページが続く。これはタイユヴァンと『料理全書』が下敷になっている。老ブルジョワは先人のレシピに手を加え、若妻が使いやすいよう注釈をつけている。タイユヴァンとは砂糖に対する嗜好が違う2とはいえ、香辛料の使用については負けずとも劣らない。いくつか面白いこともしている。例えば、エクルヴィスと魚を油で揚げる(エクルヴィスのグラヴェ3)とか、「アルブゥラートル」なるチーズ入りタルトの両面を同時に焼こうと、料理が入っているフライパンの上に、火を起こした炭を入れたフライパンをのせる、など。とはいえ、このアマチュア料理人の姿は、あの時代の食道楽としてはそんなに馬鹿にしたものではないように思われる。彼はこう書いている。「兎は、冬は一週間くらい経ったものが美味しい。夏は4日ほどがいいが、日光に当たらないようにしてやること」。古代ローマの農学者テレンティウス・ウァロ4の著作にならい、「野兎の年齢は、尻尾の下の穴の数と年齢が同じだから、それを見れば分かる」と述べる。「鯉はよく火を通すべきだ。さもなくば食べるのは危険だ。黄色や赤っぽくない、白い鱗の鯉は、水のいいところのものだ。目玉が大きく、頭から飛び出しそうになっていて、口蓋と舌が柔く貼り付いているのは脂が多い…。森鳩は冬が美味…。鱒は冬が美味しく、サーモントラウトは夏。鱒でもっとも美味しいのは尾の方で、鯉の場合は頭。アローズ5は3月にシーズンとなる」。

(原注1)『ル・メナジエ・ド・パリ』は15世紀の手稿本が3つ伝わっている。そのうち2つはブルゴーニュ公爵家所蔵で、ピション男爵の校訂により1846年に出版された。


  1. 公爵のもとに嫁いだ村娘が、妻の貞淑を試そうとする夫の暴虐に耐える物語。17世紀ペローの童話が有名だが、原型はボカッチオ『デカメロン』の最終話。 

  2. タイユヴァンでは砂糖が多用されている。 

  3. グラヴェは主として冬に作られるポタージュ(煮込み料理)。ゲガンの文章ではわかりにくいが、この料理は茹でて殻を剥いたエクルヴィスを、すり潰したアーモンドとふやかしたパンのピュレ、香辛料とともに煮込み、深皿に盛る際に揚げたエクルヴィスと魚を浮き実として加える、というもの(現代フランス語訳は Le Mesnagier de Paris, Le Livre de Poche, 1994, p.631. 参照のこと)。なお、frire は中世においては「鍋に油を熱して材料を入れて火を通すこと」だから、日本語の「炒める」「ソテーする」に相当するケースが非常に多い。ここではゲガンが「揚げる」と解釈していると考えられるのでそれに従った。 

  4. 紀元前116年〜紀元前27年。著書『農業論』De Re Rustica。 

  5. 産卵期に川を遡上するニシン科の魚。