p.XVII(2)=p.XVIII(1)
とはいえ、肉の風味をマスキングするもっとも簡単で、よく用いられた方法は、香辛料を使うことである。これまでの内容と、このページの脚注で引用してあるレシピ【原注2】を見れば、香辛料が16世紀までどれほど重要視されてきたか分かるだろう。この点でも、中世料理のレシピは、こんにちに伝わっているアピキウスとほとんど変わらない。アピキウスに名を冠した料理1のあるコンモディウス2やウィテリウス3は中世にいなかったし、アピキウスの料理書が印刷されたのは15世紀になってからのことに過ぎないにもかかわらず、だ【原注1】。
【原注2】14、15世紀にポピュラーだったソースと料理の例。
カムリーヌ(加熱しないソース)…1カルト4のカムリーヌを作るには、パンを火でこんがり、ただし焦げない程度に焼く。これを、壺か鍋に入れた混ぜ物をしていない赤ワインに浸す。パンが充分にふやけたら、ワインごと布漉しする。ヴィネガー1ショピーヌ5とシナモン1カルトロン6、1オンス7、その他の香辛料1/4オンスを加え、塩で味を整える。パンと香辛料を布で漉し取り、立派な壺に移す(タイユヴァン)。
にんにく風味のジャンス(加熱して作るソース)…生姜、にんにく、アーモンドをすりつぶし、ヴェルジュを注ぐ(タイユヴァン)。
ガリマフレ…羊のもも肉を茹で、すぐに出来るだけ細かく刻み、玉ねぎを敷いた鍋に入れる。ヴェルジュ少量とバター、生姜の粉末を加え、蓋をして弱火で加熱する。全体を混ぜ、塩で味つけする(タイユヴァン)。
去勢鶏のブラン・マンジェ…去勢鶏は水煮してよく火を通す。たっぷりのアーモンドと胸肉をすりつぶし、ブイヨンを注ぐ。布漉しして、充分とろみがつくまで煮る。これを鉢に入れる。皮を剥いたアーモンド半ダースを油で揚げ、鉢の上半分にのせる。鉢の残り半分にはざくろの粒を散らす。砂糖を上からかける(タイユヴァン)。
鶏のオシュポ…鶏を切り分けてラードで炒める。あらかじめ焼いておいたパン少量と鶏のレバーを加え、ワインと牛のブイヨンを注ぐ。そのまま煮込む。生姜、シナモン、グレーヌ・ド・パラディを細かくして加え、ヴェルジュを注ぐ。濃い赤色に仕上げるが、濃過ぎてはいけない(タイユヴァン)。
白いドディーヌ…牛乳を沸かし、フライパンに入れてローストしている素材の下に置く8。生姜の粉末と卵黄2〜3を加え、布漉しする。火にかけて沸かし、砂糖、塩少々と細かくちぎったパセリの葉を加える。マジョラムを加える場合は刻んでから入れること。あらゆる種類の水鳥9のローストに上からかける(料理全書)。
ヴェルジュのドディーヌ…ヴェルジュをフライパンに入れ、ローストしている素材の下に置く。固茹で卵の黄身と鶏のレバーを用意し、炭火で軽く焼く。これをヴェルジュ、ブイヨン少量と合わせ、生姜の粉末を加えて布漉しする。火にかけて沸かし10、たっぷりの香草を加えて供する。お好みで砂糖を加えてローストにかける(料理全書)。
赤いドディーヌ…パンをこんがりとグリルし、色の濃い赤ワインに浸す。輪切りにした玉ねぎをラードで炒める。パンは布漉しする。次に香辛料すなわちシナモン、ナツメグ、クローヴ、砂糖と塩少々を加える。これに鴨の脂を加えて火にかけ沸騰させる。ソースが煮えたら鴨など水鳥のローストにかける(タイユヴァン)。
ショデュメ…うなぎとブロシェ11をグリルし、筒切りにする。これをフライパンか寸胴鍋に入れ、えんどう豆のピュレを加えて沸かす。ブロシェの肝を漉し入れ、しょうがと色づけのためのサフランを加える。さらにヴェルジュとワインを加えて煮立てる。塩少々を加える(タイユヴァン)。
【原注1】飲み物もまたアピキウスとフランス中世のものはそっくりだった。火を通したワイン(defrutunまたはsapa)は中世のサップ12になった。香辛料入りワイン(condita)はピマン13と同じだった。果実酒も古代のやり方で作られていた。
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ゲガン訳アピキウスの序文 p.LVII 参照。ここで言及されている料理は「えんどう豆またはそら豆 ウェティリウス風」「コンモディウス風コンキクラ」「乳呑み仔豚 ウィテリウス風」。 ↩
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ローマ皇帝。在位15〜69年。 ↩
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ローマ皇帝。在位161〜192年。 ↩
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2パント=1.86L。 ↩
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約0.5L。 ↩
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1/4ポンド。 ↩
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約30g。 ↩
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串を刺して直火で焼いていたことに注意。素材から落ちる肉汁、油をフライパンで受ける。 ↩
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特に鴨。 ↩
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ピュレの濃度にもよるが、ブイヨンなど何らかの液体を足す必要があるだろう。 ↩
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川かますの一種。 ↩
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ぶどう果汁を煮つめたもの。 ↩
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はちみつと香辛料を効かせたワイン。 ↩