以前、ある雑誌の対談で、ライターさんから「フランス語を学ぶコツ」に話をむけられたことがある。そのときは思わず言葉を濁して、というか、話題をすりかえてそしらぬ顔で対談をすすめたのだが、そのあたりのやりとりがそのまま活字になってしまい、なんとも冷や汗をかいた。

すっかり忘れていたのだが、またもや「コツ」について話すことを求められてしまった。こんどは逃げられそうもない。しかたないので、わかりやすく説明するための予備練習として書いておくことにする。もっとも、あくまでも予備練習だから、この投稿じたいはちっともわかりやすくはならないと思うし、事情があって、さしあたりはさわり程度しか書かないつもりだ。

話を逸らしたり逃げ腰になっていたのは説明が面倒だったからで、「コツなどない」と言うつもりはない。効率よく学ぶためのポイントはたしかにある。ただ、ひと言で済むようなものでもない。だいたい、そんなに簡単だったら日本人の外国語コンプレックスなどとうの昔に解消されているはずだ。コツ=効率よく学ぶためのポイントはあるが、魔法はない。

動機、目的、目標

外国語を習得するうえでまず最初にはっきりさせなければならないことがある。動機と目的、目標だ。なぜ、何のために、どのくらいできるようになりたいのかを自覚する必要がある。これがあいまいなままではコツも何もあったものではない。

いまはどうか知らぬが、かつて僕が教師の仕事をしていたころは、大学の第二外国語科目の場合、フランス語やドイツ語、中国語などいくつかある科目のなかからひとつを選んで履修しなければならないようカリキュラムが組まれていた。それが進級や卒業の要件になっていたのだから、学生としては積極的な動機などあることのほうがめずらしかった。無理矢理に選ばされて勉強させられるのだから当然だろう。

それでも、せっかく授業に出て勉強しなければならないのだから、すくなくとも毎回の授業で「わかった」気になってもらい、何らかのスキルを習得してもらおうと教師は考える。

人間の心理というのは面白いもので、それまでできなかったことができるようになると、それだけで嬉しいものだ。それを褒められるとさらに嬉しい。次にまた何らかの練習なりをしてできるようになるとイメージされたら、それが次のステップへの動機付けになる。

学校の授業だと、こんな具合にして学習の動機付けと目的、目標を教師の側である程度は設定してやることが可能だ。が、学校が関係ない場合、たとえば料理人がフランス語を学ぶというケースだとどうだろう1?

調理師学校には、フランス語がカリキュラムに組み込まれているところもあるようだが、それは先に述べた学校のケースにあたるからここでは無視する。

料理人がフランス語を学ぶきっかけ、動機はおもに2つくらいあるようだ。ひとつは、現場に入ったばかりの若者が、とりあえず仕事についていけるようになるためという場合。もうひとつは、シェフになって料理書をフランス語原書で読んで研究し、自分で料理を考案したり、メニューやレシピをフランス語で書かなければならない(あるいはそれらができるようになりたい)場合だ。

とりあえず仕事についていけるようになるため?

前者について、僕に語れることはさほど多くない。なにしろ僕は調理現場を知らないのだ。それに、「とりあえず」でいいならコツ云々以前の問題だ。逆に、本格的に文法などを勉強しようと思わないほうがいいかも知れぬ。フランス語が嫌いになるだけだろう。動機と方法のミスマッチは避けるべきだ。

もし若者が、本格的にフランス料理を学ぶために、本格的にフランス語を習得しようというのであれば、その動機は上で挙げたうちの後者にあたる。かりにその若者がこれからフランス料理を学ぼうという段階にいるのであれば、料理より先に、数年でも回り道をしてフランス語、フランス文化を大学などできっちり学んでおくほうがいいかも知れぬ。もっとも、そんなケースは滅多にないだろう。

知り合いの料理人氏によれば、いまどきの料理業界でフランス語学習需要などほぼゼロにひとしいという。だが、それならばわざわざ僕のところに学習のコツを語れなどという注文はこないだろうとも思う。

だから、やや楽観的に過ぎるかもしれぬが、料理人が、きちんと、本格的にフランス語を習得するための方法論を考えてみよう。(つづく?)


  1. このブログでは現在、フランス料理がらみの話題は意図的に避けているのだが、今回のお題が料理人対象なのだからしかたない。一般化、抽象化したらわかりにくいものがいっそうわかりにくくなるだけだ。 
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