エスコフィエ『料理の手引き』のブフ・アラモードには冷製もある。

かいつまんで言うと、残ったブフ・アラモードとガルニチュールを盛りつけなおして必要ならジュレをソースに足し、煮凝りのように冷やし固めたものだ。

しばらく前のことになるが、ある料理人さんが「これって余りもの利用?」と尋ねてきた。まさにそのとおり。レシピの冒頭にこう書かれている…

ブフ・アラモードを冷製としてだけ作ることは滅多にない。大きな塊肉で作ったブフ・アラモードの残りを冷製にするのが普通だ。(Escoffier, Le guide culinaire, p.447.)

温製のブフ・アラモードのところをよく読んでいないとこの記述はわかりにくいかも知れぬ。2.5〜3kgの塊肉を切りわけたりせずにそのままブレゼするのだ。この分量は「2セルヴィス」だと書いてある。1セルヴィスは約10人分、つまりブフ・アラモードの温製は1皿で約20人分。

大人数の宴席ならどうということもなかろうが、比較的小規模な宴の献立の場合はどうするか…レシピには「半量で作る」などとは書かれていない。

エスコフィエ以前のブレゼはとにかく大きな塊肉でなくてはいけない。プラトー(大皿)に立派な盛り付けをして食卓に出すわけだから、1kgやそこらでは見栄えがよくないということもあるだろう。

だから、やや少人数の宴席の献立にブフ・アラモードを組み入れる場合、それなりの量が残ることはあらかじめわかっているわけだ。

「残りはスタッフがおいしくいただきました」とすることも、ひょっとしたらあったかも知れない。が、せっかくの料理だから「使いまわし」を考えるのは当然と言えよう。それも、たまたま余ったからなどというのではなく、事前に残ることがわかっているのだから計画的に出来る。

料理の使いまわしなど、現代日本の飲食店ではあり得ない、あってはならぬことだが、異国の、しかも食品衛生については発展途上だった時代のことである。

こういう残りもの利用の料理としては、エマンセとアシが代表的だ。エスコフィエ以前は、ブレゼと同様にロティ(ロースト)も大きな塊肉をそのまま使うのが普通だった。牛肉の場合、アロワイヨやコットなどの単位でローストするわけだ。アロワイヨは日本語だと「腰肉」と訳すが、フィレとコントルフィレ(サーロイン)、ロムステック(ランプ)のあたりをまとめてカットしたものだ。サーロイン1本の重量を考えれば、いかに大きいかわかるだろう。それを塊のままローストするのだ。

エマンセはその名のとおり肉の薄切りだが、『料理の手引き』には「アロワイヨ、コントルフィレ、フィレなどのロティあるいはブレゼの残りを用いる」(p.456)とある。アシも同様にロティまたはブレゼの残りものを使うが、サルピコン(小さなさいの目)に切る。

エマンセはロースト(またはブレゼ)を薄切りにして、あらたに作ったソースをかける類のものが多いのでイメージしやすいだろう。アシで代表的なのはアシ・パルマンティエだろう。こんにちでは挽肉で作るのが一般的だが、エスコフィエにおいてはローストかブレゼの残りを使うことになっている。もっとも、『料理の手引き』のレシピは、くり抜いたじゃがいもの中に、小さなさいの目に刻んだ肉とじゃがいものピュレを詰めてソースをかけ、オーブンで焼くというもので、こんにち一般的なアシ・パルマンティエとはだいぶ違う。

ブフ・アラモードはもちろん、エマンセもアシも客に出せる立派な料理だから、「スタッフがおいしくいただきました」とはそうそうならない筈だ。いっぽう、ブイヨンをとった後の肉は使用人たちの食事になったという。

(2016年8月)