51. のろ鹿腰肉のラグゥ仕立て Longe de chevreuil en ragoût

拍子木に切った背脂を表面に沢山刺す(ピケする)。串刺しにしてローストする。半ば火が通ったら、こしょう、ヴィネガーとブイヨン少々を焼きながらかけてやる(アロゼする)。ソースにとろみを付ける。
Lorsqu’elle est bien piquée, mettez la à la broche, puis étant à moitié cuite arrosez la avec poivre, vinaigre et peu de bouillon: faites lier la sauce, puis servez.

ラグゥと謳ってはいるが、むしろ中世のドディーヌ(dodine)に近いレシピ。素材を串に刺してローストする場合、火の横(フランス語では devant 前、と表現することが多い)に台を据えて焼くことになる。肉汁や脂が滴り落ちるので、下には受け皿がある。この受け皿にたまった肉汁と焼き脂をベースにしたソースが中世のドディーヌだ。ギヨーム・ティレル(タイユヴァン)『ル・ヴィアンディエ』には3種類のドディーヌが出ている。ただし、『ル・ヴィアンディエ』のドディーヌはいずれも鴨のロースト用のソース。なお、エスコフィエ『料理の手引き』のルーアン鴨のドディーヌ Caneton rouennais à la dodine au Chambertin (p.638)は中世のドディーヌとはまったく別の料理なので混同しないよう注意。

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図は14世紀のもの。焼いているのが鴨か鶏か鵞鳥かわからぬが、大きな匙で何らかの液体をかけている(アロゼしている)のがよく分かる。

さて、このレシピも中世のドディーヌと同様に、「こしょう、ヴィネガー、ブイヨン少々」を合わせたものを焼きながらかけてやり、下の受け皿にたまった汁をソースにすると解釈されよう。問題はソースのとろみ付けの方法だ。

『ル・ヴィアンディエ』のドディーヌはとろみ付けにパンを用いるものを卵黄を加えるものがあるが、ここではたんに「とろみを付ける」としか書かれていない。料理書としてはまことに不親切で、推測するほかない。この本では「脂で炒めた小麦粉」つまりはルゥの原型とも呼ぶべきものがしばしば使われているので、これを使うと解釈することも可能だろう。もちろん、中世のドディーヌと同様にパンあるいは卵黄を使うと考えてもいいかも知れない。

いずれにしても、「ラグゥ仕立て」という名称から、焼きあげた肉は串を外して皿に盛り、ソースをかけて供したと解釈されよう。

蛇足だが、フランス語の chevreuil (シュヴルイユ)は「のろ鹿」という小型の鹿の仲間を指す。日本のフランス料理では本州鹿やエゾ鹿をフランス語で chevreuil と書いていることが多いようだが、むしろ cerf (セール)としたほうが適切なように思う。

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