大切にしているのは手段を目的化しないということ。有機でも減農薬、無農薬でも本質的には手段あるいはその手段によってもたらされる結果に過ぎないと考えています。近代有機農法の創始者とされるイギリスのアルバート・ハワードは著書『農業聖典』An agricultural testament (1940)において、赴任先インドでの農業生産力向上に取り組み、その過程で堆肥を積極的に使用することで生産高が上がるから窒素肥料など不要でしかも病虫害にも強い作物を栽培できると記しています。「有機」はあくまでも生産性向上のための手段のひとつだったわけです。ところが現代では「有機」であることそれ自体がまるで目的になっているかのような状況が多々あります。

僕の野菜つくりの目標、目的はフランス料理、イタリア料理の文脈に沿った、プロの調理技術に応えられる食材としてのおいしい野菜です。有機、無農薬、減農薬、自然農法などを目的にはしません。

西洋料理のためのおいしい野菜を実現することを目標に、いろいろこだわっています。

 

1.野菜品種にこだわる

野菜の品種による違いは一般に思われている以上に大きいです。ヨーロッパの固定種中心、ただしF1は否定しないという方針で栽培品種を選定しています。ゆっくり生育させたほうがおいしくてクオリティの高い野菜ができるので、早生品種よりは晩生品種が中心です(つまり栽培に時間がかかります)。

2.栽培方法にこだわる

雨よけハウス……季節を乾季、雨季でいうならフランスなどは夏に乾季、冬に雨季です。つまり日本と逆です。高温期に雨の多い日本でフランスとおなじように野菜をつくることはできません。見た目はどうにかなっても味、香りの面でクオリティが落ちてしまいます。このため、水分コントロールしやすい雨よけハウス栽培を基本としています。無加温のポリハウスなのでフランス語だとgrand tunnel(大トンネル)と呼ばれるものに相当します。

肥料……科学的に立証されてはいないと思いますが、化学肥料とりわけ窒素などの単肥は微量成分とのバランスを崩し、味に影響をおよぼす気がしています(あくまで個人の主観です)。だから施肥は鶏ふん、油かすなどの有機質肥料と苦土石灰です。いわゆる化学肥料は使いません。

病害虫防除(農薬)……有機リン系およびピレスロイド殺虫剤は使用しません。単純に、僕自身がこれらの農薬の臭いが嫌いだし、気分が悪くなるからです。使用する農薬はもっぱらBT、スピノサド、ボルドー(いずれも有機JAS許容農薬)。どんな場合でも農薬取締法を遵守しています。

3.収穫タイミングと鮮度にこだわる

品目、品種、季節によって違いますが、野菜の美味しい収穫適期はとても短いです。また、ほとんどの野菜は収穫したてがおいしいです。収穫後日数が経てばそれだけ美味しさは失われます。ぼくのつくっている野菜で言えばフレーズデボワフレーズデボワエストラゴン、プティポワ(2023年は栽培なし)など代表的です。これらはきちんと冷蔵していても収穫後3・4日が限度と考え、到着後3日をめどに使い切るようご案内しています。また、レストランむけ定期便の場合は週2回のお届けをお勧めしています。

4.知識にこだわる

最大のこだわりポイントです。上の1〜3の内容は突き詰めればすべて「知識」です。15年以上にわたる野菜つくりの経験や試行錯誤で得た知識、フランス語の農業書や園芸の本などを手あたり次第に読んで学んだ知識です。もちろん料理の知識も大切にしています。どんな調理によってどのような味わいの料理になるかを知らずに食材を作ることはできません。各取引先のシェフにどんな品目を使いたいか、野菜の出来はどうだったか、どんな料理にしたのか、食べ手の反応はどうだったかなどを聞き、「協同」して野菜をつくっています。

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