書きかけの文章がいくつもあるのだが、このところあまりの忙しさとストレスですっかり放置してしまっている。ハウスの再建作業と畑仕事だけならいいのだが、農協の部会がらみなどで出掛ける用事が多く、根っからの引きこもり体質にはひどく堪える。
言い訳や愚痴はさておき、以前 coulibiac についてかんたんに書いた。その補足である。まったく別の調べもので PC に保存してある料理書の PDF を渉猟していたら(なにしろ25GB以上あるのだから文字通り渉猟だ)、1860年出版の『ロシアのガストロノミー』Gastronomie en Russie という本を見つけた。第二帝政期(1852〜1870)はロシア料理がフランスでブームだったという内容を書いておきながら、この本のことをすっかり失念していた。
さすがにクーリビヤックの作り方が詳しく出ている。うなぎのクーリビヤック、サーモンとラヴァレ 1のクーリビヤックなどとともに、キャベツのクーリビヤックが目を引く。だいたいの内容は…
玉ねぎを炒め、その間に白キャベツを細かく刻む。これを玉ねぎの鍋に加え、キャベツが柔らかくなるまで炒める。固茹で卵4〜5個を刻み、キャベツに混ぜ込む。塩、こしょう、ナツメグで調味する。
フイユタージュ500gを用意し、長方形になるよう2枚に切り分ける。下になる1枚はやや薄くすること。ここにキャベツと卵の詰め物をのせ、生地の縁を濡らしてもう1枚の生地をかぶせてつなぐ。周囲の形を整え、溶き卵などを塗る。中央に包丁の先で穴を空け、オーブンで焼く。
潔いまでに、クーリビヤックの語源とされる Kohlgebäck を思わせるキャベツのパテだ。だがこの本には語源云々といった解説めいたことは一切書かれていない。ただレシピがあるだけだ。
Chou blanc を白キャベツと訳したが、日本で一般的なキャベツはこれに近い。現代フランス語で chou blanc というといわゆるグリーンボールのような真ん丸になるタイプのイメージがあるが、古くはシュークルートにする Quintal d’Alsace のような保存漬け用の品種が優勢だったようだ。後者のタイプは、日本だと札幌大球が近いといわれているが、僕はどちらも栽培したことがないのでわからない。
いずれにしても、あまりおいしそうな料理とも思えぬのだが、それよりもむしろ、文字通りというか語源どおりのクーリビヤックが19世紀に「ロシア料理」としてフランスに紹介されていたというその事実が面白い。
- lavaret 辞書によるとコクチマス属の淡水魚らしい ↩