Andouillette lyonnaise à la moutarde ancienne et gratin dauphinois

仔牛肉のアンドゥイエット

アンドゥイエットといえば、細かく刻んだ豚の胃や腸を詰めたソーセージというのが一般的な理解だろう。これは andouillette de Troyes (アンドゥイエット・ド・トロワ トロワ風アンドゥイエット)といい、もともとはシャンパーニュ地方のトロワというところの地方料理ということだ。カンブレ風やリヨン風のアンドゥイエットも比較的よく知られている。これらは詰め物に仔牛の腸間膜(fraise de veau フレーズ・ド・ヴォー)を使う。

古い料理書に出てくるアンドゥイエットはこれらの地方料理とはずいぶん趣がちがう。そのなかでもっとも古いもののひとつがピエール・ド・リューヌ『料理の本』(1656年)およびその第2版『新・料理の本』(1660年)のものだ。

スペイン風アンドゥイエット

仔牛肉を細かく刻む。豚背脂少々、香草、卵黄、塩、こしょう、ナツメグ、粉にしたシナモンを加える。豚背脂のシートで巻いてアンドゥイエットの形状にする。串を刺してローストする。ローストする際に滴り落ちてくる肉汁は受け皿で受ける。火が通ったらその肉汁をかける。茹で卵の黄身8〜10個分と細かくおろしたパン粉を順につけて、しっかりした衣を作る。提供時にレモン汁と羊のジュをかけ、揚げたパセリを添える。 Faut hacher chair de veau, et un peu de lard, fines herbes, jaunes d’oeufs, sel, poivre, muscade, cannelle pilée, et faite andouillettes dans des platines de lard, les mettre à la broche et recevoir ce qui en tombe, et quand elles seront cuites arrosez les à la broche de la sauce et de huit ou dix jaunes d’oeufs cuits et mie de pain fraisé menu, tantôt de l’un tantôt de l’autre jusqu’à ce qu’elles aient fait une belle croûte, mets jus de citron et de mouton en servant et persil frit. (Pierre de Lune, Le nouveau cuisinier, 1660, p.40.)

こんにちの「常識」から見て意外な点は、腸詰にしていないことと、豚の内蔵ではなく仔牛肉を主材料としていることだろう。この2点において「スペイン風」ということなのだろうか?

言うまでもなく、アンドゥイエットはアンドゥイユ andouille の小さいもの、というのがそもそもの意味で、andouille はラテン語の inducere (フランス語 introduire, 英語 introduce の語源、「入れる」の意)が語源だ。だからアンドゥイユもアンドゥイエットも「腸詰」であるのが本来の姿で、主として豚の腸詰を意味すると考えたいところだ。

ところが、18世紀中頃の『食品、ワイン、リキュール事典』Dictionnaire des aliments, vins et liqueurs, 1750 では、アンドゥイエットを「細かく刻んだ仔牛肉を楕円形に巻いたもの」と定義している。実際、17、18世紀の料理書に出てくるアンドゥイエットは腸詰であるかどうかは別として、仔牛肉を主材料にしたものが多い。18世紀ヴァンサン・ラ・シャペル『近代料理』第1巻のアンドゥイエットは細かく刻んだ仔牛肉を豚の腸に詰めて作る。

これら18世紀の文献を見ていると、腸詰にしていないから、あるいは仔牛肉を使うから「スペイン風」アンドゥイエットだと捉えるのはいささか無理がありそうだ。

そもそも「スペイン風」という表現に惑わされてはいけないだろう。たしかにピエール・ド・リューヌ『料理の本』では「スペイン風」という料理名が目立つ。だが、「フランス料理」という概念が成立したばかりの頃だ。内容的には実際のスペイン料理と関係ないと考えたほうがよさそうだ。

17世紀、国王ルイ14世の母親アンヌ・ドートリッシュも、ルイ14世の王妃マリー・テレーズ・ドートリッシュもスペイン・ハプスブルク家からフランスに嫁いだ。こうしたことから、スペインは頻繁に話題にのぼる「外国」のひとつだっとことは確かだろう。

だとすると「スペイン風」は「外国風」あるいは「ちょっと変わった」程度のニュアンスと考えてもいいかも知れない。日本語で唐辛子の「唐」やチョウセンアザミ(アーティチョーク)の「朝鮮」が中国とも朝鮮半島とも関係なく、たんに「外国」の意味に過ぎないのと同じように。

さて、アンドゥイユについては14世紀末の『ル・メナジエ・ド・パリ』に豚の腸などを腸詰にするものが出ている (II-v-8)。ピエール・ド・リューヌでも「豚のアンドゥイユ」がある。これは豚の皮下脂肪などを豚の小腸に詰めたものをさらに大腸に詰めて作る (op.cit., p.41)。

だから「アンドゥイエットはもともと腸詰ではなく、仔牛肉で作ったものだ」、などと断定もできない。たんにレシピが記録されなかっただけという可能性もある。地方料理であるトロワのアンドゥイエットが古い料理書に記されていないのも不思議ではない。

地方料理のレシピを集めた本が出てくるのは19世紀以降のこと、主に20世紀になってからで、中世から18世紀の料理書はもっぱら宮廷、貴族やブルジョワの館で客を招いてふるまったりするための料理を記録したものだというのを忘れてはいけない。