"Beiteddine - sanglier et ours" by This photo was taken by Eusebius (Guillaume Piolle).Feel free to reuse it, but always credit me as the author as specified below. - 投稿者自身による作品. Licensed under Creative Commons Attribution 3.0 via Wikimedia Commons - http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Beiteddine_-_sanglier_et_ours.jpg#mediaviewer/File:Beiteddine_-_sanglier_et_ours.jpg

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(14)

66. 猪肩肉のラグゥ仕立て Epaule de sanglier en ragoût

猪肩肉に棒状に切った豚背脂をラルデ針で刺し、大きな釜に水をいっぱいに張って、塩、こしょう、ブーケガルニで煮る。このとき味をつけすぎないように注意。煮汁をよく煮つめてソースにするからだ。半ば煮えたら白ワイン1L弱1を注ぎ、クローブ、ローリエ、ローズマリー1枝を加える。よく煮えて、煮汁が煮つまってきたらとろみを付ける。とろみ付けの方法は以下のとおり。(フライパンに)豚背脂を熱して溶かし、小麦粉少々を炒める。玉ねぎ1個を細かいみじん切りにして加え、さらに軽く炒める。これをソース(煮汁)に加えてとろみを付ける。さらにケイパーとマッシュルームを加えて弱火で煮る。味をととのえる。
Lardez la de gros lard, puis la mettez dans une chaudière pleine d’eau, avec sel, poivre, et un bouquet. Prenez bien garde de ne la trop assaisonner parce qu’il faut réduire le bouillon à une sauce courte. Etant plus de moitié cuite vous y mettrez une pinte de vin blanc, du clou, et une feuille de laurier ou un bâton de romarin: puis étant bien cuite, et la sauce courte, vous la liérez: Et pour ce faire faites fondre du lard et y passez un peu de farine, puis mettez y un oignon aché bien menu, faites lui faire un tour ou deux de poêle, et le versez dans votre sauce, que vous serez mitonner avec câpres et champignons, et le tout étant bien assaisonné servez.

とろみ付けの方法を比較的詳しく書いてある点が重要。小麦粉を脂で炒めたものを加えてとろみを付けているわけで、いわば「ルゥ」の原型である。ただしここでは「ルゥ」roux という語は用いられていない。roux はもともと「赤褐色(に焦げたもの)」のこと。長時間色付くまで炒めることでソースの色をコントロールするようになるのはもっと後の時代になってから。

こんにちルゥはバターと小麦粉を炒めて作るのが一般的だ。たしかに、カレーム『19世紀フランス料理2』でも、エスコフィエ『料理の本』でも、ルゥを作るのにはバターを用いるよう書いてある。ところが『料理の本』の初版(1903年)では「獣脂またはバター」となっていた。また、料理学校コルドン・ブルーの初代主任教授ペラプラの『現代の料理』L’art culinaire moderne, 1935 では、ソース・ドゥミグラスの項でルゥは「獣脂(バターは使わないこと)と小麦粉を弱火で炒めて作る」(p.115)と説明されている。ルゥにつねにバターを使っていたわけではないのだ。

ところで、煮汁をかなり煮つめていることも、とろみを付けるのに一役買っていると言えよう。20世紀後半以降、ソースのとろみ付けにルゥはほとんど使われなくなり、かわりに、煮つめることでとろみを付けるのが主流だ。「レデュクシオン」などと気取って言う人も少なくないようだが、要は「煮つめる」ということだ。これもラ・ヴァレーヌ以前の中世の料理書にはあまり出てこない方法だということは記憶に留めておきたい。

ついでに、猪のレシピを中世の料理書、ギヨーム・ティレル(タイユヴァン)『ル・ヴィアンディエ』から拾ってみると

生の猪肉。ワインを加えた湯で茹でる。ソース・カムリーヌ3、ポワーヴル・エグレ4食する。塩漬けの猪肉はマスタードで食する。
Venoison de sanglier frez. Cuit en vin et en eaue, à la cameline et au poivre aigret; le salé, à la moutarde. (Le Viandier, Pichon et Vicaire éd., p.220)

『ル・メナジエ・ド・パリ』に出ている猪の調理法も似たようなもので、茹でて何らかの「ソース」を添えるだけだ。中世料理の場合、ソースとはいってもむしろ「コンディマン condiment」に近い。

こうしたごくシンプルな中世のレシピと比べると、17世紀にラグゥが「美味しいもの、食欲をそそるもの」の代名詞として流行したのがよくわかるような気がする。


  1. 原文 une pinte 約0.93L 
  2. t.1, p.55 
  3. 中世の代表的な「ソース」。いくつか種類があるが、焼いたパンを赤ワインに浸したものにヴィネガー、シナモン、しょうが、クローブ、メース、こしょうを加えて裏漉しする。 
  4. こしょうとヴェルジュ(未熟ぶどう果汁)または野生のりんごを合わせたソース。