ラ・ヴァレーヌのラグゥ(12)

52. 羊背肉のラグゥ仕立て Côtelettes de mouton en ragoût

羊背肉は切り分けて叩く。小麦粉をまぶし、フライパンで焼く。別鍋に移し、ブイヨンを注ぎ、ケイパーを加えて煮る。しっかり味付けする。
Découpez les, puis les battez et enfarinez, les passez ensuite par la poêle, étant passées mettez les avec bon bouillon et câpres, et le tout bien assaisonné, servez.

55. 仔兎のラグゥ仕立て Lapereaux en ragoût

鶏と同様にフリカセしてもいいし、フライパンで焼いて少量の小麦粉を加えてもいい。鍋に移し、ブイヨンを注いで弱火で煮る。ケイパー、オレンジ果汁またはレモン汁、ブーケガルニまたは香草を加えて味付けする。
別の作り方
仔兎をローストし、切り分ける。これをフライパンで焼き、平鍋に移して弱火で煮る。オレンジ果汁、ケイパー、パン粉少々を加える。ソースはしっかり味付けし、よく煮つめること。
Vous les pouvez fricasser comme poulets, ou les passer par la poêle avec un peu de farine, puis les mettez mitonner avec bon bouillon, et assaisonnez avec câpres, jus d’orange ou citron, et bouquet ou ciboule.
Autre façon
Lorsqu’ils sont rôtis découpez les en pièces, les passez par la poêle et mettez mitonner dans un plat avec jus d’orange, câpres, peu de chapelure de pain: sauce de haut goût et courte, servez.

冒頭をカタカナ混じりで直訳すると「鶏と同様にフリカセしてもいい」となる。フリカセ fricasser という動詞はすでに見たように「油脂を熱した鍋に素材を入れて強火で焼く」ことだ。この場合、ou 以下の「またはライパンで表面を焼き小麦粉少々を加える」とまったく同じ意味である。つまり、この接続詞 ou の用法は「同格」と解釈される。

その一方で、この本には「鶏のフリカセ」Poulez fricassés (直訳すると「フリカセした鶏」)があるので、そちらも気になるところだろう。鶏のフリカセの場合は切り分けた鶏肉をブイヨンで茹でてから強火で焼くというプロセスになっている。肉を下茹でしてから焼くというのは中世ではごく一般的な手順だった。また、とろみ付けに卵黄を用いるとなっており、小麦粉を使うとは書いていない。上の訳はこの解釈による。

「別の作り方」ではローストしてから切り分け、さらにフライパンで焼く手順になっている。おそらく、豚背脂のシートで素材を包んで (バルデ barder) ローストすると解釈するのがいいだろう。実際、火の通り具合をコントロールする目的で豚背脂のシートで素材を包んでローストするのはごく一般的におこなわれていた。

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(11)

51. のろ鹿腰肉のラグゥ仕立て Longe de chevreuil en ragoût

拍子木に切った背脂を表面に沢山刺す(ピケする)。串刺しにしてローストする。半ば火が通ったら、こしょう、ヴィネガーとブイヨン少々を焼きながらかけてやる(アロゼする)。ソースにとろみを付ける。
Lorsqu’elle est bien piquée, mettez la à la broche, puis étant à moitié cuite arrosez la avec poivre, vinaigre et peu de bouillon: faites lier la sauce, puis servez.

ラグゥと謳ってはいるが、むしろ中世のドディーヌ(dodine)に近いレシピ。素材を串に刺してローストする場合、火の横(フランス語では devant 前、と表現することが多い)に台を据えて焼くことになる。肉汁や脂が滴り落ちるので、下には受け皿がある。この受け皿にたまった肉汁と焼き脂をベースにしたソースが中世のドディーヌだ。ギヨーム・ティレル(タイユヴァン)『ル・ヴィアンディエ』には3種類のドディーヌが出ている。ただし、『ル・ヴィアンディエ』のドディーヌはいずれも鴨のロースト用のソース。なお、エスコフィエ『料理の手引き』のルーアン鴨のドディーヌ Caneton rouennais à la dodine au Chambertin (p.638)は中世のドディーヌとはまったく別の料理なので混同しないよう注意。

1200px-Meat_on_spit

図は14世紀のもの。焼いているのが鴨か鶏か鵞鳥かわからぬが、大きな匙で何らかの液体をかけている(アロゼしている)のがよく分かる。

さて、このレシピも中世のドディーヌと同様に、「こしょう、ヴィネガー、ブイヨン少々」を合わせたものを焼きながらかけてやり、下の受け皿にたまった汁をソースにすると解釈されよう。問題はソースのとろみ付けの方法だ。

『ル・ヴィアンディエ』のドディーヌはとろみ付けにパンを用いるものを卵黄を加えるものがあるが、ここではたんに「とろみを付ける」としか書かれていない。料理書としてはまことに不親切で、推測するほかない。この本では「脂で炒めた小麦粉」つまりはルゥの原型とも呼ぶべきものがしばしば使われているので、これを使うと解釈することも可能だろう。もちろん、中世のドディーヌと同様にパンあるいは卵黄を使うと考えてもいいかも知れない。

いずれにしても、「ラグゥ仕立て」という名称から、焼きあげた肉は串を外して皿に盛り、ソースをかけて供したと解釈されよう。

蛇足だが、フランス語の chevreuil (シュヴルイユ)は「のろ鹿」という小型の鹿の仲間を指す。日本のフランス料理では本州鹿やエゾ鹿をフランス語で chevreuil と書いていることが多いようだが、むしろ cerf (セール)としたほうが適切なように思う。

ピエール・ド・リューヌのラグゥ(2)

このところラ・ヴァレーヌ関連の投稿ばかりになっているが、これはピエール・ド・リューヌ『料理の本』(1656年)を読み解くための予備的な性格がつよい。言ってみればピエール・ド・リューヌが「本命」ということになる。

山うずらのラグゥ仕立て Perdrix en ragoût

山うずらは開いて平らにのばす。棒状に切った豚背脂をラルデ針で刺し、フライパンで焼く。これを陶製の鍋に入れて、ブイヨン、塩、こしょう、ナツメグで煮る。次に、フライパンでマッシュルーム、豚背脂、小麦粉少々を炒めて加える。グラス1杯の白ワイン、レモン汁を加えて煮上げる。仔牛胸腺肉と炒めたマッシュルームを添える。
Fendez les perdrix ou les aplatissez; les lardez de moyen lard, passez-les à la poêle et les faites cuire dans une terrine avec bouillon, sel, poivre, muscade, puis passez champignons à la poêle avec lard et un peu de farine; faites cuire tout ensemble avec un verre de vin blanc et jus de citron et mouton; en servant, garnissez de ris de veau, champignons frits1.

正直なところ、原文後半にある mouton がよくわからない。普通に考えたら「レモン汁と羊のジュ」となるのだが… とりあえず訳文では mouton は外してある。

さて、ラ・ヴァレーヌにも同じ料理名のレシピはあるが、シンプル過ぎていまひとつイメージが湧かないかも知れない。ピエール・ド・リューヌの場合は味付け、付合せについてもより具体的な記述になっている。文字通りの「再現」も不可能ではない筈だ。あるいは、現代風にアレンジ(再解釈)するのもいいだろう。自由に発想し、展開するための「想像力(創造力)のパン種」みたいなものと考えていい。ただ、そのためには原文をできるだけ正確に読解しなければならない。だからこそいっそう、mouton の語が解釈できないのは残念。

古い料理書の例にもれず、基本的に分量指定がない。ただ、山うずら perdrix が複数形であることと、17世紀の他の料理書に記された献立構成を考えると、少なくとも6人分以上を一度に調理したことは確かだろう。

とはいえ、一箇所だけ分量指定がある。「グラス1杯の白ワイン」だ。日本語で「カップ1杯」といえば200mlだが、エスコフィエなどではグラス1杯はおおむね80〜100ml。17世紀には具体的にどの程度の量だったかは分からないが、ニュアンスとしては若干量と捉えていいだろう。

ラ・ヴァレーヌとの比較で言えば、ラ・ヴァレーヌの「ラグゥ仕立て」には香辛料を使う指示がきわめて少ない。これに対して、こしょう、ナツメグという具体的な指示があるのが興味深い。逆に言えば、この料理ではこしょう、ナツメグ以外の香辛料はまったく入れない、というやや穿った解釈も可能だろう。

マッシュルームが煮汁にもガルニチュールにも使われているのもポイントのひとつと言えるかも知れない。ラ・ヴァレーヌでもマッシュルームは頻繁に使われている。マッシュルームは17世紀に人口栽培されるようになった。当時としては比較的目新しい、「プレミアム」な食材のひとつだった。

本文の記述からは外れるが、エスコフィエの、たとえばガルニチュール・フィナンシエールなどがひとつでも構成要素が欠けたり、他のもので代用すると成立しなくなってしまうほど厳密なものであるのに対し、17世紀の料理書の場合は、ラ・ヴァレーヌが「適宜ガルニチュールを添える」というようなかなりいい加減な調子だったことを考えると、ある程度は自由にイメージしていいように思う。そういう意味では、アーティチョークなどは16世紀以降きわめて好まれる食材で、ベアティーユにも含めることが多かったから、この「山うずらのラグゥ仕立て」のガルニチュールにアーティチョークも加えると愉しいように思う。


  1. L’art de la cuisine française au XVIIe siècle, Payot, 1995, pp.262-263. 

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(10)

47. 仔牛もも肉のラグゥ仕立て Rouelle de veau en ragoût

棒状に切った背脂をラルデ針で差し込み、串を刺してローストする。半分よりやや火が通ったところで鍋に入れてブイヨン少々を注ぎ、ブーケガルニを加える。しっかり蓋をして弱火で煮込む。ソース(煮汁)はパン粉か小麦粉でとろみを付け、玉ねぎを加える。トリュフとマッシュルームを添える。
Lardez la de gros lard, l’embrochez et la faites cuire un peu plus de la moitié: puis la mettez mitonner avec peu de bouillon et un bouquet, et couvrez bien. Etant cuite servez avec une sauce liée de chapelure de pain ou de farine, et un oignon. Servez la garnie de truffes et champignons.

ローストしてから煮込み、とろみ付けにパンを用いているので、やや中世風の仕立てと言えよう。

48. 仔牛肩肉のラグゥ仕立て Epaule de veau en ragoût

仔羊肩肉は下茹でし、小麦粉をまぶす。脂を熱したフライパンで焼き、しっかりと色付いたら陶製の鍋に移して(ブイヨンを注ぎ)弱火で煮込む。いろいろな香味素材で作ったブーケガルニとベアティーユ、小麦粉少々、玉ねぎのみじん切り少々、ヴィネガー少々を加える。
Faites la blanchir et la farinez, puis la passez par la poêle, étant bien rousse mettez la mitonner dans une terrine. Etant presque cuite assaisonnez la d’un bouquet de toutes sortes, de béatilles, champignons, passez y un peu de farine, un peu d’oignon haché et un filet de vinaigre, puis servez.

ベアティーユ béatilles は鶏のとさか、仔牛胸腺肉、マッシュルームなどを合わせたもの。パテの詰め物にしたり、ガルニチュールとして料理に添えたりした。

49. 羊肩肉のラグゥ仕立て Epaule de mouton en ragoût

羊肩肉はよく叩き、皮は剥ぐ。小麦粉をまぶしフライパンで焼く。鍋に入れてブイヨンを注ぎ、ブーケガルニを加えて弱火で煮込む。しっかりと味付けする。ケイパーなどのガルニチュールを添える。
Battez la bien et en ôtez la peau: puis la farinez et passez par la poêle: ensuite mettez la mitonner avec bon bouillon, un bouquet et bon assaisonnement, garnissez la de ce que vous aurez; entre-autres chose de câpres, et servez.

「羊胸肉の煮込み」Poictrine de mouton en aricotと比べてみると面白い。

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(9)

41. 仔牛または羊の足 ラグゥ仕立て Pieds de veau et de mouton en ragoût

仔牛の足はよく茹でてから小麦粉をまぶし、背脂またはラードを熱したフライパンで焼く。(鍋に移し、)ブイヨン少々、ヴェルジュ少々、ブーケガルニ、レモン1切れ、脂で炒めた小麦粉を加えて弱火で煮る。しっかりと味付けし、ソースを煮つめる。ケイパーを混ぜ込む。
羊の足も同様に調理する。よく茹でたら虫を取り除き、小麦粉をまぶす。背脂かラードを熱して焼く。(鍋に移し、)ブイヨン少々、ヴェルジュ、ブーケガルニ、レモン1切れ、脂で炒めた小麦粉を加えて弱火で煮る。しっかりと味付けし、ソースを煮つめる。ケイパーを混ぜ込む。
Etant bien cuits, les farinez et passez par la poêle avec du lard ou saindoux, puis les mettez mitonner avec peu de bouillon, peu de verjus, un bouquet, un morceau de citron, et farine passé: le tout bien assaisonné et la sauce courte, mêlez y des câpres, puis serverz.
Les pieds de mouton se font de même; étant bien cuits, et le ver ôté, les farinez et passez avec lard ou saindoux, et les mettez mitonner avec peu de bouillon et verjus, un bouquet, morceau de citron, et farine passée, le tout bien assaisonné et sauce courte, y mêlés des câpres et servez.

下茹でした素材に小麦粉をまぶして脂を熱したフライパンで焼き、ブイヨンを注いで弱火で煮込み、煮汁(ソース)をしっかり煮つめる、という手順は仔牛の足、羊の足どちらも同じだ。

よくわからないのは「羊の足」のほうで書いてある le ver ôté という表現。le ver は「虫」のこと。誤植ではないかと他の版も確認したが間違いではないようだ。

なお、pieds-de-veauというマムシグサ科の植物、pieds-de-mouton (ピエ・ド・ムゥトン 和名シロカノシタ)という名称の茸があるが、肉料理の章なのでここでは関係ない。

42. グラ・ドゥーブルのラグゥ仕立て Gras-double en ragoût

グラ・ドゥーブルは白く、柔く茹でる。細かく刻み、フライパンに背脂を熱して、パセリとシブールとともに炒める。ケイパー、ヴィネガー、脂で炒めた小麦粉、玉ねぎを加えて弱火で煮込む。
別の作り方として、とろみ付けに卵黄とヴェルジュを混ぜ込んでもいい。
(グラ・ドゥーブルの)別の料理法
グラ・ドゥーブルは厚いものを使う。切り分けて塩とパン粉をまぶす。これを網焼きする。ヴェルジュかヴィネガー、またはオレンジ果汁かレモン汁をかけて調味する。
Etant bien blanc et bien cuit, coupez-le bien menu, le fricassez avec lard, persil et ciboule, et assaisonné avec câpres, vinaigre, farine frite et un oignon: faites le mitonner, et servez.
Vous pouvez aussi y mêler en autre façon jaunes d’oeufs et verjus pour liaison.
Autre façon.
Prenez le bien gras, le découpez, poudrez de sel et de mie de pain, le faites rôtir sur le gril, et l’assaisonné de verjus de grain ou vinaigre, ou jus d’orange ou de citron, puis servez.

グラ・ドゥーブルは牛の第1胃 (panse パンス、日本語でミノ) のこと。double が反芻動物の第1胃を指す。gras は形容詞で「肉厚の」の意。厳密には牛の第1胃そのものを panse (パンス)、下処理したものを gras-double (グラ・ドウーブル)と区別するらしいが、実際にはほぼ同義と考えていい。

日本のフランス料理ではせいぜい Gras-double (à la ) lyonnaise (グラ・ドゥーブルのリヨン風) が知られている程度かも知れないが、エスコフィエ『料理の手引き』では7種、モンタニェ『ラルース・ガストロノミック』初版では12のレシピが収録されている。

さて、食文化史の観点からこのレシピで注目すべきポイントは2つ。ひとつは fricasser。こんにちフリカセというと、たとえば鶏のフリカセのように、主として白いラグゥのことを指す。甲殻類などを使う白くないフリカセもあるが、やはり煮込みだ。仏和辞典でも「ホワイトソースで煮込む、フリカッセにする1」と書いてる。

が、ここでは「鍋に油脂を熱し、素材を強火で焼く」の意味で使われている。中世から17世紀にかけて、動詞としての (つまり料理名ではなく、ということ) fricasser はもっぱらこの意味で使われていた。

「強火で焼く」意味の fricasser がどのようにして「煮込み」へと変化したのか…じつはこのラ・ヴァレーヌ『料理の本』にその最初期の例が出てくるのだが、その変化のプロセスを考えるためにはラグゥについての理解を深めておく必要がある。だからこのブログで料理名としてのフリカセを取り上げるのはしばらく先のことになると思う。

もうひとつ、「とろみを付けるのに卵黄とヴェルジュを加えてもいい」とあるところ。とろみ付けに卵黄を使うということだ。ある種の煮込みでとろみを付けるために仕上げに溶きほぐした卵黄を加えるというのは中世以来長く一般的に行なわれてきた。もっとも、日本のフランス料理では卵黄をとろみ付けに使うことは珍しいらしく、あるプロの料理人にそういう話をしたところ、「熱で凝固してしまうから無理だろう」とか「温度を上げられない」「色が付いてしまう」などという反応が返ってきて驚いたことがあった。実際のところ、生クリームなり煮汁なりでしっかり乳化させておき、よく混ぜながら加えれば沸騰状態まで温度を上げていても凝固しないのだが… これについては、レモン・オリヴェがTV番組で実地で説明している映像がWEBで見られる2

ところで、「別の料理法」となっているものはたんなるパン粉付け焼きなので「ラグゥ」とは呼びがたい。これは「グラ・ドゥーブルのラグゥの別の作り方」ではなく、グラ・ドゥーブルの料理法としてもうひとつ書いてある、と理解される。


  1. 『ロワイヤル仏和中辞典』旺文社 
  2. ina.fr 

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(8)

39. ひばりのラグゥ仕立て Alouettes en ragoût

ひばりは掃除をし、砂肝を取り除く。胸肉のあたりを軽く潰す。小麦粉をまぶし、鍋に背脂を熱して焼く。充分に焼き色が付いたら弱火で煮込む。ケイパーとマッシュルームを加え、味付けをする。レモンの外皮を削ったもの、またはレモン汁かオレンジ、ブーケガルニを加えてもいい。浮いてくる余分な脂を取り除き、適宜ガルニチュールを添える。
Etant habillées ôtez leur le gésier et leur écrasez un peu l’estomac, les farinez et passez avec du lard: étant bien rousses faites les mitonner, et assaisonnez de câpres et de champignons. Vous y pouvez mettre écorce de citron ou jus, ou orange, ou un bouquet. Dégraissez les et servez avec ce que vous aurez à servir.

ひばりは一般には alouette (アルゥエット)、とりわけ脂ののったものは mauviette (モヴィエット)と呼ばれる。ちなみに、薄切りにした肉や魚のフィレでファルスなどを円筒状に巻いたポピエットは別名 alouette sans tête (アルゥエット・サン・テット 頭のないひばり、あるいは oiseau sans tête オワゾー・サン・テット 頭のない鳥) とも呼ばれる。こんなことを書くと、「何故そう呼ぶのか」と訊かれることもしばしばなので、この文の主旨から外れるが、19世紀にベストセラーをなったオドの料理書から挿絵を引用しておく。

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小鳥類のローストの図。一羽ずつ背脂のシートで包み、まとめて串に縛り付けている。この図で、小鳥の頭を落とした様子を想像すればいいだろう。繰り返すが、この図は19世紀の料理書のもので、この投稿の主旨からは外れるので注意。

さて、このレシピのポイントは原文 étant bien rousses。「充分に焼き色が付いたら」と訳したが、rousses (roux) は本来「赤褐色」という意味だ。そこから「焦げた色」という用法になる。ラ・ヴァレーヌでは、肉類の表面を焼くのは passer par la poêle あるいは fricasser (フリカセ)を使うことが多い。fricasser はしばしば「こんがり焼く」つまり dorer (ドレ)と同義に解釈されるが、むしろ「強火で焼く」と捉えたほうがいいくらいだ。前者 passer par la poêle にいたっては、「フライパンにかける」程度の意味しかなく、焼き色については何も言っていないに等しい。だから、rousses (roux 赤褐色に、充分な焼き色に)と指定してあることは注目に値するだろう。

ちなみに、この roux という言葉は後の、小麦粉を油脂で時間をかけて炒めて作る「ルゥ」の語源だ。

なお、このレシピでも「充分に焼き色が付いたら」と「弱火で煮込む」の間に「煮込み用の鍋に移してブイヨンを注ぐ」という表現が欠落している。

ラ・ヴァレーヌ『フランス料理の本』のこと

ラ・ヴァレーヌのラグゥのレシピを少しずつこのブログにアップしているが、ラ・ヴァレーヌについての基礎知識を書いていなかったことに気づいた。

フランソワ・ピエール・ド・ラ・ヴァレーヌ François Pierre de la Varenne (1618-1678)、日本ではラ・ヴァレンヌと表記することもある。17世紀の偉大なシェフ。『フランス料理の本』Le Cuisinier François (1651年)の著者。タイトルの François は Français の古い綴り。著者の名前フランソワではない。

『フランス料理の本』は『フランスの料理人』と訳されることも多いが、そもそもこの本はレシピ集である。料理人の何たるかを書いた本でもなければ、料理人の伝記や小説の類でもない。だから「料理人」という日本語タイトルでは内容に即したものとは言えない。それに、cuisinier という語にはストレートに「料理の本」という意味がある1。だから僕は『フランス料理の本』と表記することにしている。

この本の特徴は

  • 料理書ではじめてラグゥ ragoût という語を用いた
  • デュクセルの初出
  • アントルメとして野菜料理を収録した
  • とろみ付けにパンではなく小麦粉を使うようになる。ルゥの原型と見做せるものもいくつかある

などなど。何しろギヨーム・ティレル(タイユヴァン)の『ル・ヴィアンディエ』(14世紀後半)以来の料理人による料理書である。15、16世紀にはフランス語で料理人が書いた料理書は刊行されていない(少なくともその存在が伝えられていない)。料理書の歴史には200年以上も空白があるわけだから、文字通り「画期的」な本だ。

17世紀は絶対王政の時代であり、アカデミー・フランセーズによってフランス語の語彙・文法が整理、純化された。これには「言語をコントロールすることによって王権を強化する」意味合いもあった。一見、料理と何の関係もないことのようだが、王権の強化によってフランスという国家が強く意識されるようになったことと、ラ・ヴァレーヌの本がタイトルに「フランス」と掲げていることは無関係ではない。それまでの(中世)フランス語で書かれた料理書には「フランス」という国家あるいはその文化という概念、意識は認められない。これに対し、17世紀ラ・ヴァレーヌの本はタイトルから「フランス」と謳っている。(料理書は「実用書」だから当然といえば当然なのだが、だからこそ無意識的ともいえる概念の表象は意義深い)。

ラ・ヴァレーヌ『フランス料理の本』の「出版者による序文」にはこうある。

われらがフランスは、作法や礼節、いろいろな交際術において世界の他のどんな国よりも勝っているという名誉を得ているのだから、教養やマナーに秀でて品のよい生活様式についても同じように高く評価されているのだ。

ことさらに他国に対する優位性を料理という分野においても誇示している。フランス料理こそがもっとも優れた食文化であるという考えの原型と言えよう。この傾向は18世紀のマラン、19世紀のカレーム、20世紀のエスコフィエにも共通のものだ。フランス文化における「中華思想」のヴァリエーションのひとつであるが、その嚆矢と見て差し支えあるまい。少なくとも、著者その人ではなく「出版者」が書いたということを差し引いても、この本における「フランス料理」という概念の萌芽を示すものと言えるだろう。

話は逸れるが、フランス料理こそもっとも優れている、という考え方は日本のフランス料理関係者のあいだにも少なからずあるようだ。

客観的に見たら、フランスの食文化も、さまざまな地域文化のうちのひとつであり、どれが優れていてどれが劣っているなどということはあり得ない。そもそも、文化において優劣を決めようとするのは単一の価値観の押し付けにすぎず、他者を尊重することなど出来ない偏狭な考え方だ。

その一方で、「フランス料理の時代は終わった」とばかりにスペイン、北欧、ベネルクス、南米などとガスロトノミーの「最先端」を後追いし、皮相的な模倣ばかりする傾向も日本のフランス料理にはあるようだ。けれども、19世紀以降多くの国におけるガストロノミーがフランス料理をベースに発展したという歴史的事実を否定することは出来ない。そして、多くのガストロノミーのベースとなっているフランス料理が主としてエスコフィエの「体系」にもとづくものであり、エスコフィエの「体系」がフランス料理の長きにわたる歴史に根ざしたものであることも忘れてはいけない。

だからこそ、ラ・ヴァレーヌをはじめとする古い料理書を読む意義があるわけだが、日本のフランス料理あるいはガストロノミーがそういった問題意識を持つのはいつのことだろうか。

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(7)

37. 豚のラグゥ仕立て Cochon en ragoût

豚を掃除をする。皮は剥いてもいい。4つに切り分け、小麦粉をまぶす。フライパンで表面を焼き、味付けする。ケイパー、トリュフ、マッシュルームを加える。ソースは煮つめる。
Après l’avoir habillé, levez en la peau si vous voulez, puis le coupez en quatre, le farinez, passez par la poêle, bien assaisonné au goût: garnissez le de câpres, truffes, champignons, et servez à sauce courte.

おそらくは仔豚を用いると思われる。

このレシピには「ブイヨンを加えて煮る」という記述が欠落している。このような記述の漏れは珍しくないので注意が必要。

38. 仔牛腰肉のラグゥ仕立て Longe de veau en ragoût

よく叩き、棒状に切った豚背脂をラルデ針で縦に刺す。串を刺してローストする。半ば火が通ったら、鍋に移してブイヨンを注ぎ、弱火で煮込む。小麦粉と炒めた玉ねぎを加えて煮汁(ソース)にとろみを付ける。マッシュルーム、アーティチョーク、アスパラガス、トリュフ、適当に切った仔牛の腎臓を添える。
Etant bien battue, lardez la de gros lard et l’embrochez, puis étant à moitié cuite mettez la mitonner avec bon bouillon, et faites une sauce liée avec farine et oignon passé. Garnissez de champignons, artichaux, asperges, truffes, et le rognon découpé: servez.

ここで訳出した2つに共通する点として、主素材以外の具材を加えるのを garnir (添える)という動詞で表現していることがある。つまり主素材以外の具材を「ガルニチュール」と捉えていると考えられる。仕上げの段階で加えていることから、それぞれの具材は適切な下処理、調理をしておく必要があるだろう。

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(6)

34. 鵞鳥のラグゥ仕立て Oie en ragoût

鵞鳥1羽は4つに切り分け、よく叩く。小麦粉をまぶしてフライパンで表面を焼く。ブイヨンで煮て、各種香辛料とブーケガルニを加えて味付けする。鵞鳥のレバー、砂肝、手羽、頸づるを加える。ソースをよく煮つめてとろみが付くようにする。
Prenez une oie, la coupez en quatre étant bien battue, la farinez et faites passer par la poêle, puis la faites cuire avec du bouillon, l’assaisonnez de toute sorte d’épice et d’un bouquet. La garnissez de tous ses abatis, qui sont foie, gésier, ailes, et col: que la sauce soit courte et liée, puis servez.

35. サルセル鴨のラグゥ仕立て Sarcelles en ragoût

サルセル鴨を掃除して形を整えたら、薄切りにした背脂で包む。フライパンで表面を焼く。(鍋に移し、)しっかりと味付けをしたブイヨンを注いで弱火で煮る。豚背脂少々、小麦粉少々、玉ねぎ、ケイパー、マッシュルーム、トリュフ、ピスタチオ、レモンの外皮を加える。
Etant habillées bardez les de moyen lard, les passez par la poêle et les faites mitonner avec bouillon bien assaisonné, puis les passez avec un peu de lard et de farine, oignon, câpres, champignons, truffes, pistaches, et écorce de citron tous ensemble, puis servez.

Moyen lard は古い料理書で見かける表現。gros lard は赤身をほとんど含まない脂身で、もっぱら背脂のこと。petit lard, lard maigre はいわゆる豚ばら(三枚肉)で、脂身と赤身からなる。通常は塩漬けにしたものを使う。moyen lard はその中間、やや赤身の混ざった脂身と解釈されるが、実際上は背脂または豚ばらの脂身と捉えていいだろう。

明示的に書かれていないが、既に見てきたレシピから、豚背脂は叩いたもの、玉ねぎはすり潰したものを加えると解釈されよう。

36. 七面鳥のラグゥ仕立て Poulet d’Inde en ragoût

七面鳥を開いて叩く。拍子木に切った背脂をピケ針で刺してもよい。小麦粉をまぶしてフライパンで表面を焼く。陶製の鍋に移してブイヨンを注ぎ、弱火で煮る。味付けし、好みの食材をガルニチュールとして加える。ソースを充分に煮つめる。
Fendez le et battez, puis le piquez si voulez de gros lard, le farinez et passez par la poêle; le mettez ensuite mitonner dans une terrine avec bon bouillon, bien assaisonné et garni de ce que vous voudrez. Faites le cuire jusqu’à sauce courte, et servez.

七面鳥は現代フランス語では dinde (ダンド)だが、古くは poule d’Inde (プゥル・ダンド)あるいは poulet d’Inde (プゥレ・ダンド)と呼ばれた。いずれも「インドの鶏」の意。アメリカ大陸原産だが16世紀にはスペイン経由でフランスにもたらされ、家禽として飼育されるようになった。Dinde という表現はオリヴィエ・ド・セール『農業経営』(1600年)で既に見られるが、17世紀を通じて poulet d’Inde と書かれることが多かったようだ。

ところで、「好みの食材をガルニチュールとして加える」とは、レシピの表現としては乱暴だが、鵞鳥のラグゥ仕立てと同様にレバー、砂肝、手羽など、あるいはマッシュルームやトリュフ、ケイパーなどを加えるということだろう。

ピエール・ド・リューヌのラグゥ(1)

17世紀の料理書というとラ・ヴァレーヌばかりが有名だが、ほぼ同時期のピエール・ド・リューヌ『料理の本』(1656年)も無視出来ない重要なものだ。フランス食文化史の観点からばかりではなく、現代の料理シーンで古典をどう活かすかという点で、とても示唆に富んだ書物と言える。

この本はロアン公爵に仕えた料理長が書いたものと言われている1。「月の石」を意味するピエール・ド・リューヌ Pierre de Lune という名前が本名かどうかはわからないが、1660年には『新・料理の本』、1662年には『完全版メートルドテルのための本』がピエール・ド・リューヌ名義で出版されている。後者は貴族の城館などで行なわれる宴席の総責任者であるメートルドテルの主たる仕事内容、つまり献立と食卓の配置などについての本だが、「スペイン風料理」と題したレシピ集も収録されている。

さて、ピエール・ド・リューヌ『料理の本』はどのレシピもきわめて興味深いものだが、さしあたりラグゥの名称が付いているものについて見ていこうと思う。

仔羊のラグゥ

仔羊は4つに切り分け、棒状に切った背脂をラルデ針で刺し込む。軽く焼き色を付ける。これを陶製の鍋に入れてブイヨンを注ぎ、塩、こしょう、ブーケガルニ、クローブ、マッシュルームを加えて味付けする。火が通ったら、フライパンで炒めた牡蠣、小麦粉少々、アンチョヴィ2尾、レモン汁を加える。薄切りにして色よく炒めたマッシュルームを添える。
Mettez-le en quatre quartiers, le lardez de moyen lard et lui donnez un peu de couleur; le mettez dans une terrine avec bouillon assaisonné de sel, poivre, un paquet, clous, champignons, et quand il sera cuit passez huîtres par la poêle, un peu de farine, deux anchois, jus de citron et par tranche, garni de champignons frits.

肉をブイヨンで煮る前に焼くわけだが、原文は「軽く色を付ける」としか書いていない。4つに切り分けた仔羊それぞれに串を刺してローストするというのは考えにくいので、大きなフライパンに油脂を熱して表面を焼くと解釈していいだろう。

ラ・ヴァレーヌの「仔羊のラグゥ仕立て」と比べると、とろみ付けに小麦粉を使う点は同じだが、ここでは牡蠣とアンチョヴィを合わせているのが興味深い。古い料理書では肉料理に牡蠣を合わせるケースがしばしば見られるが、これもそのひとつ。


  1. Gilles et Laurence Laurendon, «Préface» à L’art de la cuisine française au XVIIe siècle, Payot, 1995, p.XII.