ラ・ヴァレーヌのラグゥ(9)

41. 仔牛または羊の足 ラグゥ仕立て Pieds de veau et de mouton en ragoût

仔牛の足はよく茹でてから小麦粉をまぶし、背脂またはラードを熱したフライパンで焼く。(鍋に移し、)ブイヨン少々、ヴェルジュ少々、ブーケガルニ、レモン1切れ、脂で炒めた小麦粉を加えて弱火で煮る。しっかりと味付けし、ソースを煮つめる。ケイパーを混ぜ込む。
羊の足も同様に調理する。よく茹でたら虫を取り除き、小麦粉をまぶす。背脂かラードを熱して焼く。(鍋に移し、)ブイヨン少々、ヴェルジュ、ブーケガルニ、レモン1切れ、脂で炒めた小麦粉を加えて弱火で煮る。しっかりと味付けし、ソースを煮つめる。ケイパーを混ぜ込む。
Etant bien cuits, les farinez et passez par la poêle avec du lard ou saindoux, puis les mettez mitonner avec peu de bouillon, peu de verjus, un bouquet, un morceau de citron, et farine passé: le tout bien assaisonné et la sauce courte, mêlez y des câpres, puis serverz.
Les pieds de mouton se font de même; étant bien cuits, et le ver ôté, les farinez et passez avec lard ou saindoux, et les mettez mitonner avec peu de bouillon et verjus, un bouquet, morceau de citron, et farine passée, le tout bien assaisonné et sauce courte, y mêlés des câpres et servez.

下茹でした素材に小麦粉をまぶして脂を熱したフライパンで焼き、ブイヨンを注いで弱火で煮込み、煮汁(ソース)をしっかり煮つめる、という手順は仔牛の足、羊の足どちらも同じだ。

よくわからないのは「羊の足」のほうで書いてある le ver ôté という表現。le ver は「虫」のこと。誤植ではないかと他の版も確認したが間違いではないようだ。

なお、pieds-de-veauというマムシグサ科の植物、pieds-de-mouton (ピエ・ド・ムゥトン 和名シロカノシタ)という名称の茸があるが、肉料理の章なのでここでは関係ない。

42. グラ・ドゥーブルのラグゥ仕立て Gras-double en ragoût

グラ・ドゥーブルは白く、柔く茹でる。細かく刻み、フライパンに背脂を熱して、パセリとシブールとともに炒める。ケイパー、ヴィネガー、脂で炒めた小麦粉、玉ねぎを加えて弱火で煮込む。
別の作り方として、とろみ付けに卵黄とヴェルジュを混ぜ込んでもいい。
(グラ・ドゥーブルの)別の料理法
グラ・ドゥーブルは厚いものを使う。切り分けて塩とパン粉をまぶす。これを網焼きする。ヴェルジュかヴィネガー、またはオレンジ果汁かレモン汁をかけて調味する。
Etant bien blanc et bien cuit, coupez-le bien menu, le fricassez avec lard, persil et ciboule, et assaisonné avec câpres, vinaigre, farine frite et un oignon: faites le mitonner, et servez.
Vous pouvez aussi y mêler en autre façon jaunes d’oeufs et verjus pour liaison.
Autre façon.
Prenez le bien gras, le découpez, poudrez de sel et de mie de pain, le faites rôtir sur le gril, et l’assaisonné de verjus de grain ou vinaigre, ou jus d’orange ou de citron, puis servez.

グラ・ドゥーブルは牛の第1胃 (panse パンス、日本語でミノ) のこと。double が反芻動物の第1胃を指す。gras は形容詞で「肉厚の」の意。厳密には牛の第1胃そのものを panse (パンス)、下処理したものを gras-double (グラ・ドウーブル)と区別するらしいが、実際にはほぼ同義と考えていい。

日本のフランス料理ではせいぜい Gras-double (à la ) lyonnaise (グラ・ドゥーブルのリヨン風) が知られている程度かも知れないが、エスコフィエ『料理の手引き』では7種、モンタニェ『ラルース・ガストロノミック』初版では12のレシピが収録されている。

さて、食文化史の観点からこのレシピで注目すべきポイントは2つ。ひとつは fricasser。こんにちフリカセというと、たとえば鶏のフリカセのように、主として白いラグゥのことを指す。甲殻類などを使う白くないフリカセもあるが、やはり煮込みだ。仏和辞典でも「ホワイトソースで煮込む、フリカッセにする1」と書いてる。

が、ここでは「鍋に油脂を熱し、素材を強火で焼く」の意味で使われている。中世から17世紀にかけて、動詞としての (つまり料理名ではなく、ということ) fricasser はもっぱらこの意味で使われていた。

「強火で焼く」意味の fricasser がどのようにして「煮込み」へと変化したのか…じつはこのラ・ヴァレーヌ『料理の本』にその最初期の例が出てくるのだが、その変化のプロセスを考えるためにはラグゥについての理解を深めておく必要がある。だからこのブログで料理名としてのフリカセを取り上げるのはしばらく先のことになると思う。

もうひとつ、「とろみを付けるのに卵黄とヴェルジュを加えてもいい」とあるところ。とろみ付けに卵黄を使うということだ。ある種の煮込みでとろみを付けるために仕上げに溶きほぐした卵黄を加えるというのは中世以来長く一般的に行なわれてきた。もっとも、日本のフランス料理では卵黄をとろみ付けに使うことは珍しいらしく、あるプロの料理人にそういう話をしたところ、「熱で凝固してしまうから無理だろう」とか「温度を上げられない」「色が付いてしまう」などという反応が返ってきて驚いたことがあった。実際のところ、生クリームなり煮汁なりでしっかり乳化させておき、よく混ぜながら加えれば沸騰状態まで温度を上げていても凝固しないのだが… これについては、レモン・オリヴェがTV番組で実地で説明している映像がWEBで見られる2

ところで、「別の料理法」となっているものはたんなるパン粉付け焼きなので「ラグゥ」とは呼びがたい。これは「グラ・ドゥーブルのラグゥの別の作り方」ではなく、グラ・ドゥーブルの料理法としてもうひとつ書いてある、と理解される。


  1. 『ロワイヤル仏和中辞典』旺文社 
  2. ina.fr 

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(8)

39. ひばりのラグゥ仕立て Alouettes en ragoût

ひばりは掃除をし、砂肝を取り除く。胸肉のあたりを軽く潰す。小麦粉をまぶし、鍋に背脂を熱して焼く。充分に焼き色が付いたら弱火で煮込む。ケイパーとマッシュルームを加え、味付けをする。レモンの外皮を削ったもの、またはレモン汁かオレンジ、ブーケガルニを加えてもいい。浮いてくる余分な脂を取り除き、適宜ガルニチュールを添える。
Etant habillées ôtez leur le gésier et leur écrasez un peu l’estomac, les farinez et passez avec du lard: étant bien rousses faites les mitonner, et assaisonnez de câpres et de champignons. Vous y pouvez mettre écorce de citron ou jus, ou orange, ou un bouquet. Dégraissez les et servez avec ce que vous aurez à servir.

ひばりは一般には alouette (アルゥエット)、とりわけ脂ののったものは mauviette (モヴィエット)と呼ばれる。ちなみに、薄切りにした肉や魚のフィレでファルスなどを円筒状に巻いたポピエットは別名 alouette sans tête (アルゥエット・サン・テット 頭のないひばり、あるいは oiseau sans tête オワゾー・サン・テット 頭のない鳥) とも呼ばれる。こんなことを書くと、「何故そう呼ぶのか」と訊かれることもしばしばなので、この文の主旨から外れるが、19世紀にベストセラーをなったオドの料理書から挿絵を引用しておく。

oiseaux-broche-audot-1896

小鳥類のローストの図。一羽ずつ背脂のシートで包み、まとめて串に縛り付けている。この図で、小鳥の頭を落とした様子を想像すればいいだろう。繰り返すが、この図は19世紀の料理書のもので、この投稿の主旨からは外れるので注意。

さて、このレシピのポイントは原文 étant bien rousses。「充分に焼き色が付いたら」と訳したが、rousses (roux) は本来「赤褐色」という意味だ。そこから「焦げた色」という用法になる。ラ・ヴァレーヌでは、肉類の表面を焼くのは passer par la poêle あるいは fricasser (フリカセ)を使うことが多い。fricasser はしばしば「こんがり焼く」つまり dorer (ドレ)と同義に解釈されるが、むしろ「強火で焼く」と捉えたほうがいいくらいだ。前者 passer par la poêle にいたっては、「フライパンにかける」程度の意味しかなく、焼き色については何も言っていないに等しい。だから、rousses (roux 赤褐色に、充分な焼き色に)と指定してあることは注目に値するだろう。

ちなみに、この roux という言葉は後の、小麦粉を油脂で時間をかけて炒めて作る「ルゥ」の語源だ。

なお、このレシピでも「充分に焼き色が付いたら」と「弱火で煮込む」の間に「煮込み用の鍋に移してブイヨンを注ぐ」という表現が欠落している。

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(7)

37. 豚のラグゥ仕立て Cochon en ragoût

豚を掃除をする。皮は剥いてもいい。4つに切り分け、小麦粉をまぶす。フライパンで表面を焼き、味付けする。ケイパー、トリュフ、マッシュルームを加える。ソースは煮つめる。
Après l’avoir habillé, levez en la peau si vous voulez, puis le coupez en quatre, le farinez, passez par la poêle, bien assaisonné au goût: garnissez le de câpres, truffes, champignons, et servez à sauce courte.

おそらくは仔豚を用いると思われる。

このレシピには「ブイヨンを加えて煮る」という記述が欠落している。このような記述の漏れは珍しくないので注意が必要。

38. 仔牛腰肉のラグゥ仕立て Longe de veau en ragoût

よく叩き、棒状に切った豚背脂をラルデ針で縦に刺す。串を刺してローストする。半ば火が通ったら、鍋に移してブイヨンを注ぎ、弱火で煮込む。小麦粉と炒めた玉ねぎを加えて煮汁(ソース)にとろみを付ける。マッシュルーム、アーティチョーク、アスパラガス、トリュフ、適当に切った仔牛の腎臓を添える。
Etant bien battue, lardez la de gros lard et l’embrochez, puis étant à moitié cuite mettez la mitonner avec bon bouillon, et faites une sauce liée avec farine et oignon passé. Garnissez de champignons, artichaux, asperges, truffes, et le rognon découpé: servez.

ここで訳出した2つに共通する点として、主素材以外の具材を加えるのを garnir (添える)という動詞で表現していることがある。つまり主素材以外の具材を「ガルニチュール」と捉えていると考えられる。仕上げの段階で加えていることから、それぞれの具材は適切な下処理、調理をしておく必要があるだろう。

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(6)

34. 鵞鳥のラグゥ仕立て Oie en ragoût

鵞鳥1羽は4つに切り分け、よく叩く。小麦粉をまぶしてフライパンで表面を焼く。ブイヨンで煮て、各種香辛料とブーケガルニを加えて味付けする。鵞鳥のレバー、砂肝、手羽、頸づるを加える。ソースをよく煮つめてとろみが付くようにする。
Prenez une oie, la coupez en quatre étant bien battue, la farinez et faites passer par la poêle, puis la faites cuire avec du bouillon, l’assaisonnez de toute sorte d’épice et d’un bouquet. La garnissez de tous ses abatis, qui sont foie, gésier, ailes, et col: que la sauce soit courte et liée, puis servez.

35. サルセル鴨のラグゥ仕立て Sarcelles en ragoût

サルセル鴨を掃除して形を整えたら、薄切りにした背脂で包む。フライパンで表面を焼く。(鍋に移し、)しっかりと味付けをしたブイヨンを注いで弱火で煮る。豚背脂少々、小麦粉少々、玉ねぎ、ケイパー、マッシュルーム、トリュフ、ピスタチオ、レモンの外皮を加える。
Etant habillées bardez les de moyen lard, les passez par la poêle et les faites mitonner avec bouillon bien assaisonné, puis les passez avec un peu de lard et de farine, oignon, câpres, champignons, truffes, pistaches, et écorce de citron tous ensemble, puis servez.

Moyen lard は古い料理書で見かける表現。gros lard は赤身をほとんど含まない脂身で、もっぱら背脂のこと。petit lard, lard maigre はいわゆる豚ばら(三枚肉)で、脂身と赤身からなる。通常は塩漬けにしたものを使う。moyen lard はその中間、やや赤身の混ざった脂身と解釈されるが、実際上は背脂または豚ばらの脂身と捉えていいだろう。

明示的に書かれていないが、既に見てきたレシピから、豚背脂は叩いたもの、玉ねぎはすり潰したものを加えると解釈されよう。

36. 七面鳥のラグゥ仕立て Poulet d’Inde en ragoût

七面鳥を開いて叩く。拍子木に切った背脂をピケ針で刺してもよい。小麦粉をまぶしてフライパンで表面を焼く。陶製の鍋に移してブイヨンを注ぎ、弱火で煮る。味付けし、好みの食材をガルニチュールとして加える。ソースを充分に煮つめる。
Fendez le et battez, puis le piquez si voulez de gros lard, le farinez et passez par la poêle; le mettez ensuite mitonner dans une terrine avec bon bouillon, bien assaisonné et garni de ce que vous voudrez. Faites le cuire jusqu’à sauce courte, et servez.

七面鳥は現代フランス語では dinde (ダンド)だが、古くは poule d’Inde (プゥル・ダンド)あるいは poulet d’Inde (プゥレ・ダンド)と呼ばれた。いずれも「インドの鶏」の意。アメリカ大陸原産だが16世紀にはスペイン経由でフランスにもたらされ、家禽として飼育されるようになった。Dinde という表現はオリヴィエ・ド・セール『農業経営』(1600年)で既に見られるが、17世紀を通じて poulet d’Inde と書かれることが多かったようだ。

ところで、「好みの食材をガルニチュールとして加える」とは、レシピの表現としては乱暴だが、鵞鳥のラグゥ仕立てと同様にレバー、砂肝、手羽など、あるいはマッシュルームやトリュフ、ケイパーなどを加えるということだろう。

ピエール・ド・リューヌのラグゥ(1)

17世紀の料理書というとラ・ヴァレーヌばかりが有名だが、ほぼ同時期のピエール・ド・リューヌ『料理の本』(1656年)も無視出来ない重要なものだ。フランス食文化史の観点からばかりではなく、現代の料理シーンで古典をどう活かすかという点で、とても示唆に富んだ書物と言える。

この本はロアン公爵に仕えた料理長が書いたものと言われている1。「月の石」を意味するピエール・ド・リューヌ Pierre de Lune という名前が本名かどうかはわからないが、1660年には『新・料理の本』、1662年には『完全版メートルドテルのための本』がピエール・ド・リューヌ名義で出版されている。後者は貴族の城館などで行なわれる宴席の総責任者であるメートルドテルの主たる仕事内容、つまり献立と食卓の配置などについての本だが、「スペイン風料理」と題したレシピ集も収録されている。

さて、ピエール・ド・リューヌ『料理の本』はどのレシピもきわめて興味深いものだが、さしあたりラグゥの名称が付いているものについて見ていこうと思う。

仔羊のラグゥ

仔羊は4つに切り分け、棒状に切った背脂をラルデ針で刺し込む。軽く焼き色を付ける。これを陶製の鍋に入れてブイヨンを注ぎ、塩、こしょう、ブーケガルニ、クローブ、マッシュルームを加えて味付けする。火が通ったら、フライパンで炒めた牡蠣、小麦粉少々、アンチョヴィ2尾、レモン汁を加える。薄切りにして色よく炒めたマッシュルームを添える。
Mettez-le en quatre quartiers, le lardez de moyen lard et lui donnez un peu de couleur; le mettez dans une terrine avec bouillon assaisonné de sel, poivre, un paquet, clous, champignons, et quand il sera cuit passez huîtres par la poêle, un peu de farine, deux anchois, jus de citron et par tranche, garni de champignons frits.

肉をブイヨンで煮る前に焼くわけだが、原文は「軽く色を付ける」としか書いていない。4つに切り分けた仔羊それぞれに串を刺してローストするというのは考えにくいので、大きなフライパンに油脂を熱して表面を焼くと解釈していいだろう。

ラ・ヴァレーヌの「仔羊のラグゥ仕立て」と比べると、とろみ付けに小麦粉を使う点は同じだが、ここでは牡蠣とアンチョヴィを合わせているのが興味深い。古い料理書では肉料理に牡蠣を合わせるケースがしばしば見られるが、これもそのひとつ。


  1. Gilles et Laurence Laurendon, «Préface» à L’art de la cuisine française au XVIIe siècle, Payot, 1995, p.XII. 

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(5)

25. 仔羊のラグゥ仕立て Agneau en ragoût

仔羊をローストし、陶製の鍋に入れてブイヨン少々とヴィネガー、塩、こしょう、クローブ、ブーケガルニ、炒めた小麦粉少々、すり潰した玉ねぎ少々、ケイパー、マッシュルーム、レモンかオレンジの外皮を加える。弱火で煮込む。
Faites le rôtir, puis le mettez dans une terrine avec un peu de bouillon, vinaigre, sel, poivre, clou, et un bouquet, peu de farine passée, peu d’oignon pilé, câpres, champignons, écorce de citron, ou d’orange, et le tout bien mitonné ensemble, servez.

26. 仔牛上ばら肉のラグゥ仕立て Haut côté de veau en ragoût

上ばら肉は肋骨ごとに切り離す。小麦粉をまぶして、豚背脂を熱したフライパンで焼く。これを鍋に入れ、ブイヨン少々、ケイパー、アスパラガス、トリュフを加える。弱火でよく煮込む。
Coupez le par côtes, les farinez, et les passez par la poêle avec du lard, puis les empotez, et les faites cuire avec peu de bouillon, câpres, asperges, truffes, et le tout bien mitonné, servez.

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(4)

20. 羊尾肉のラグゥ仕立て Queue de mouton en ragoût

羊尾肉は腿付きのものを使う。棒状に切った背脂をラルデ針で全体に刺し、牛塊肉1とともに茹でる。半ば火が通ったら鍋から取り出し、小麦粉をまぶしてフライパンで焼く。陶製の鍋に移してブイヨンを注ぐ。マッシュルーム2、ケイパー、牛口蓋肉3を加えて味付けをし、蓋をしてよく煮る。
Prenez-la jointe au membre, lardez la toute de gros lard, et la mettez cuire avec une pièce de boeuf; lorsqu’elle sera à moitié cuite tirez la, l’enfarinez et la passez par la poêle, puis la mettez dans une terrine avec bon bouillon, et l’assaisonnez bien de champignons, câpres, palais de boeuf, et couvrez, et la laissez bien cuire, puis servez.

「尾肉」と書いてあるが実際にはバロン(baron, 両腿の付いた後半身肉)にほぼ相当すると考えていいだろう。ただ、バロンは鞍下肉を含むが、ここでの「尾肉」が同様かはわからない。


  1. pièce de boeuf イチボなどの大きな塊肉 
  2. 日本語で一般にマッシュルームと呼ばれるツクリタケ champignon de Paris, champignon de couche はこの本が書かれた17世紀中頃に栽培がはじまった。 
  3. 「白いアバ」に分類され、17、18世紀にはよく料理に用いられた。水によくさらして血抜きをし、下茹でしてから煮込みなどにする。 

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(3)

18. 豚舌肉のラグゥ仕立て Langue de porc en ragoût

生の豚舌肉を使う。フライパンで表面を焼き、よく煮る。しっかり味付けする。ほぼ火が通ったら、(煮汁から豚舌肉を取り出して、)すり潰した玉ねぎ、小麦粉、白ワイン少々とともにもう一度フライパンで焼く。これを先の煮汁に戻して弱火で煮込む。
Prenez les fraîches1 et les passez par la poêle, puis les faites bien cuire et asaisonner de haut goût, étant presque cuites vous les repasserez avec oignon pilé, truffes, farine sèche et un peu de vin blanc, et les faites mitonner dans leur même bouillon, et étant cuites servez.

19. 羊舌肉のラグゥ仕立て Langue de mouton en ragoût

羊舌肉は数本用意する。よく茹でた後、小麦粉をまぶしてフライパンで表面を焼く。鍋に移してブイヨンを注ぎ、弱火で煮込む。玉ねぎ少々、トリュフ、パセリを加え、味付けする。ヴェルジュ少々とヴィネガー少々で仕上げる。
Prenez en plusieurs, et étant bien cuites farinez les et passez par la poêle, faites les mitonner avec bon bouillon, et y passez2 peu3 d’oignon, champignons, truffes, persil ensemble, le tout bien assaisonné, avec un filet de verjus et de vinaigre, puis servez.


  1. 塩漬けなどの加工肉ではない、生の豚舌肉ということ。 
  2. passer 古い料理書では「炒める、焼く」の意味で用いられることも多いが、本来この語にはそのような意味はない。道具、手段などが明示されることで「それによって作業する」ということ。ここでは「加える」程度に解釈。 
  3. peu de 現代フランス語では「ほとんどない」の意だが、17世紀には「少量の」。 

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(2)

17. 牛舌肉のラグゥ仕立て Langue de boeuf en ragoût

牛舌肉に、長い棒状に切った背脂をラルデ針で縦に刺し込む。鍋で茹でる。しっかり味付けする。おおむね火が通ったら火から外して冷ます。拍子木に切った背脂を刺し、ロースト用の串を通す。煮汁をかけながら焼き上げる。串を抜いたら煮汁に戻し入れ、すり潰した玉ねぎ少々、背脂少々、ヴィネガー少々を加えて弱火で煮込む。
Lardez la de gros lard, puis l’empotez, faites cuire, et assaisonnez de haut goût. Lorsqu’elle sera presque cuite laissez la refroidir, piquez la, embrochez, et arrosez de son ragoût jusques à ce qu’elle soit rotie, et tirée faites la mitonner dans la sauce avec un peu d’oignon pilé, un peu de lard, et un peu de vinaigre, puis servez.

肉を下茹で→ロースト→煮る、というプロセスは中世の料理では珍しくなかった。その意味では、この「牛舌肉のラグゥ仕立て」はやや前時代風なのかも知れない。一方、中世で多用されていた香辛料がまったく使われていない点も面白い。

ローストする際に煮汁をかけながら(アロゼ)焼くわけだが、語学的な面では、その煮汁をラグゥ ragoût と呼んでいるのがとりわけ興味深い。さらにこの煮汁はソース sauce と言い換えられている。

ラグゥ ragoût は17世紀になってから用いられるようになった言葉で、語源的には「食欲をそそるもの」の意があるわけだが、ここでは既に、「ソースと具材が一体になった煮込み、およびその煮汁(ソース)」の意味で用いられていることが確認されるわけだ。

ラ・ヴァレーヌのラグゥ(1)

ラ・ヴァレーヌのラグゥをひとつずつ見ていくことにする。フランス語は現代の綴りにしたが、文法や語彙は原文のまま。注をつけておくので適宜参考にされたい。

16. 山うずらのラグゥ仕立て Perdrix en ragoût

Prenez vos perdrix1, habillez-les2, et les piquez3 de trois ou quatre lardons de gros lard4, puis les farinez5 et les passez6 dans la poêle avec lard ou saindoux; ensuite faites-les cuire dans une terrine, bien consommer7 et assaisonner. Lorsque vous voudrez servir prenez du lard et le battez dans un mortier, mêlez le dans votre ragoût8, et servez.
山うずらを掃除し、拍子木に切った背脂3〜4本を刺す。小麦粉をまぶし、背脂かラードを熱したフライパンで焼く。これを陶製の鍋に入れる。(ブイヨンを注いて火にかけ、)完全に火を通す。味付けする。背脂を鉢に入れて叩き、提供直前に混ぜ込む。


  1. 山うずらとちりめんキャベツ」参照。 
  2. habiller は「着せる」ではなく「身支度を整える」のイメージ。つまり余分な部分は切り落し、きれいに整形することなので、この1語で羽をむしり、首づるを落して内蔵を取り除き、必要に応じて腿を固定するという一連の下処理の作業を表している。ラ・ヴァレーヌ以前、つまり中世の料理書であればさらに「下茹でする」ところ。実際、ラ・ヴァレーヌでも肉を炒める(焼く)前に下茹でする指示がされているレシピもある。なお、ここでは「切り分ける」とは言っていないことに注意。また、ここで使用される山うずらが「複数」であることにも注意。 
  3. piquez-les 
  4. gros lard は豚背脂で赤身肉が付いていないものを言う。 
  5. farinez-les なお、素材に小麦粉をまぶしてから炒める、炒めてから鍋に小麦粉を振り入れる、別鍋に油脂を熱し小麦粉を炒めてから煮汁に加える、等の方法は17世紀以降に一般化した。 
  6. passez-les. passer は「漉す」ではなくこの場合は「フライパンで焼く」。ただしどの程度の火力を用いるか、焼き色を付けるかどうかは記されていない。 
  7. consommer は「完成させる」の意。また、煮るためには何らかの液体を注ぐわけだが、ここでは自明のこととして明記されていない。ラ・ヴァレーヌの他のレシピとの比較から、「ブイヨンを注ぐ」という指示が省略されていると考えるのが妥当だろう。また、「陶製の鍋」を用いることから、弱火でじっくり時間をかけて煮ることが推測される。さらに、この consommer「完成させる」が煮汁を煮つめることも含意している可能性に留意すること。 
  8. 現代なら、仕上げとしてバターを混ぜ込む(monter au beurre 日本語では「ブールモンテ」などと呼ぶことが多い)ところ。