現在お買い物カゴには何も入っていません。
投稿者: Manabu GOTO
ルーコラ・セルヴァティカ(5〜10月末)
- イタリア語名 rucola selvatica
- フランス語名 roquette sauvage
- 学名 Diplotaxis tenuifolia
- 和名ロボウガラシ
- 日本の青果業界での通称セルバチコ
いわゆるルーコラ(ルッコラ、ロケット、学名 eruca vesicaria)とは別種。強い風味が特徴。しばしばごまにたとえられる香りは辛子、大根などのアブラナ科によく見られる揮発性物質によるものなので加熱するとすぐに失われる。ある程度以上の量を摂取するには、若い葉を香り付け用に少量別に取り置き、全体は加熱調理するといい。花も葉と同様に香り高く美味しい。肉料理の付け合せとしてあしらい的に用いるほか、トマトとアンチョヴィ風味のパスタソース、ピザのトッピングなどに。(©2023 Manabu GOTO)
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1900年ごろの下っぱキュイジニエの月給は45フランくらい
(前回のつづき)
Emilie TUZ, L’apparition des restaurants de luxe dans les alpes-maritimes (1860-1914). (エミリー・テュス『アルプマリティム地域圏における高級レストランの誕生』)という、ニース大学に提出された(らしい)メトリーズ(修士)論文の要約PDFファイルを見ると、1900年ごろのニースの料理人の月給は45フランくらいからだったと繰り返し書かれている。
メトリーズ課程だからだろうか、残念なことにタイトルページに提出大学名も年月日もなければ、合否の結果も書かれていない。とはいえとてもよく調べてあって、基本的な文献もしっかり押さえてあるから参考にするには充分だろう。
当時の若い料理人の下宿の家賃が18〜20フランつまり月給の半分ちかくだったこととか、ある料理人の給与明細を13年にわたって調べると月給45フランからスタートして、13年後には225フランまで昇給していたという夢のような出世のケースまで描かれている。
さて、エスコフィエである。『料理の手引き』初版から第三版の価格12フランとコミ(ヒラの料理人)のスタート時の月給45フランで比べてみると、この本が月給の2割弱(17.8%)だったことがわかる。
エスコフィエのいう「若い料理人諸君に買える価格」とはいちばん下っぱの料理人の月給の2割ということだ。これについていろんな意見はあるだろうが、いくつもの超高級ホテルを統括する総料理長の感覚が街場の若い料理人と違っても仕方あるまい。
飲食業界関係の方ならいまの日本の場合と比較してどうなのか即座にわかるだろう。それから、前回書いた「賃金ベースだと1フラン=5,000〜6,000円」というのもそれなりに妥当な数字と納得できると思う。そんなこともあってこの記事でも具体的に書こうかと飲食関係の求人情報をいくつか見たのだが、知人の店が上の方でヒットしたのでやめておくことにした。興味があったらググって計算してみていただきたい。(つづく)
エスコフィエ『料理の手引き』初版は8フランだった
エスコフィエは「料理の手引き」序文にこう書いている。
本書は、かつて私が構想したとおりとは言い難い出来だが、いずれはそうなるべく努めねばなるまい。とはいえ、現状でも料理人諸君にとって大いに役立つものと信じている。だからこそ本書を誰にでも、とりわけ若い料理人諸君に買える価格にした。そもそも若い料理人諸君にこそこの本を読んで貰いたい。今はまだ初心者であったとしても、20 年後には組織のトップに立つべき人材なのだから。
私はこの本を豪華な装丁の、書棚の飾りのごときにするのは望まぬ。そうではなく、いつでも、どんな時でも手元に置いて、分からないことを常に明らかにしてくれる盟友として欲しい。
日本には、この記述を錦の御旗のように掲げて「だから日本語訳も安価にすべき」と阿房な主張をするひともいるようだ(というか実際にいた)。いや、高価とか安価といった「判断」は個人それぞれの状況と主観に左右されるからいちがいに言えない。だから「事実」を見るだけにしよう。
エスコフィエ『料理の手引き』初版扉のシール 画像はフランス国立図書館蔵 Escoffier, Auguste, Le guide culinaire, Paris, L’Art culinaire, 1903.1https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k65768837.r=Escoffier,%20Auguste?rk=85837;2 つまり『料理の手引』初版の扉ページを拡大したもの。販売価格を記したシールが貼られているのがわかるだろうか。12フラン。
ところがこれ、版元であるラール・キュリネールの同名雑誌年間購読料。まったく紛らわしい。雑誌「ラール・キュリネール」に掲載された広告を見ると
L’Art culinaire 1903 さて、8フランがいまの日本円でどのくらいの価値なのか気になる向きは多いだろう。
フランスは20世紀初頭まで金本位制だったから100年以上金銭の価値に大きな変動はなかったとされている。ただこの金本位制だけを頼りに計算するとおかしな数字になってしまうので、1フラン=5,000〜6,000円くらいで考えるのがこんにちでは一般的なようだ。これは労働者の賃金をベースに考えた場合で、食料品価格をベースに1フラン=2,000円くらいとするケースもある。僕が学生の頃は無根拠に19世紀の1フラン=1,000円と覚えていて、バルザックの小説などを読みながら「なんか計算合わないというか感覚的におかしいんじゃないか、この登場人物たち」とずっと思っていた。いずれにしてもエンゲル係数がとんでもなく高かった昔のことだというのを忘れてはいけない。ここで「実感」が大きく異なるからだ。
そもそも、過去のモノの価値を現在の価格に置き換えることじたいがあまり学術的な結果を期待できないものだ。価値というきわめて主観的な判断に依存したものを定量化、数値として比較するのはナンセンスと言ってもいい。上で書いた5,000〜6,000円という数字もあくまで目安にすぎない。
それでも大雑把に見積もると、『料理の手引き』初版、1903年時点で8フラン=40,000〜48,000円くらいということになろうか。
もちろん当時はTVA(付加価値税)なんてなかったから、いまならそれが価格に上のせされるだろう。フランスのTVAは書籍だと5.5%(軽減税率、標準だと20%)、日本なら10%。「いまの価格に置き換える」というならこれも勘定に入れないといけない。
さて、エスコフィエの序文にもどって「若い料理人諸君に買える価格」と豪華な装丁の、書棚の飾りのごときにするのは望まぬ」という表現はいっけんしたところまったく矛盾がないように思えるだろう。というかそもそも矛盾していると気づかないかもしれない。
ここで『料理の手引き』の判型つまり本のサイズが問題になるのだが、すでに長くなってしまったので次回にしようと思う(つづく)。
すごい本のいちばんすごいところ……エスコフィエ『料理の手引き』
Facebookに投稿したものの再掲です。
オーギュスト・エスコフィエ(1846 〜 1935)、近代フランス料理最大の偉人です。でも「昔のえらい人」くらいのイメージしかないかもしれませんね。ましてやその著書『料理の手引き』となると……「えらい人が書いたすごい本」。そりゃ間違いなくそうですが……
なんでこの本がすごいか? たんにレシピを集めて並べただけの本じゃない、フランス料理を「体系化」したからです。後にも先にも、ここまで徹底しているものはありません。逆に言うと、フランス料理を体系的に勉強するにはいまもこの本をマスターするしかないわけです。
体系化=システムの構築ですから、とにかく無駄がありません。同じ説明、記述の繰り返しをとにかく避けます。これはすでに説明したからここでは繰り返さない、みたいな文が何か所もあります。それはつまり、理解したかったら別のページを参照しろ、ってことです。そういうのが5000におよぶレシピと解説全体で徹底しています。
体系化が端的に表われているのがソースです。まず「フォン」(だし)が数種類あります。それにルーなどを加えてソース・エスパニョルやヴルテ、ベシャメルのような「基本ソース」が作られます。基本ソースにいろいろな調味料、アルコール、野菜などを足すことで「派生ソース」が作られます。このシステムをスッキリ仕上げたのがエスコフィエなんです。それ以前の料理書でもソース作りをシステマティックにしようとしている形跡はあるんですが、エスコフィエはその完成形です。
いま日本の料理書はどちらかというと写真集みたいなのが多いと思います。ある料理のページならそこを読むだけで料理が作れるようになっている、つまりそれぞれ独立したレシピが順に並んでいることでしょう。とっつきやすいのは確かですが、教科書としてみるなら非効率この上ないんです。応用、展開するための発想、考え方を身に付けさせる意図はあんまりないんだと思います。
そういう意味で『料理の手引き』は、フランス料理、というか近代以降の西洋料理を「体系的に」学ぶための唯一無二といっても過言ではないと思います。
ただレシピを並べただけの本ばかりで学ぶか、体系的に学んで応用力、展開力を身につけるか……この差は大きいでしょう。
電子書籍 エスコフィエ『料理の手引き』EPUBファイルについて詳しくみる
紙媒体での刊行予定はありません
電子書籍版EPUBファイル販売中のエスコフィエ『料理の手引き』五島訳ですが、紙媒体つまり昔ながらの普通の本として出版の見込みが2022年11月19日現在、まったくありません。
恥ずかしながら友人との電話で、この事実をきちんとアナウンスしていなかったと気づかされました。あらためて、紙の本として出版する見通しが現状ゼロであることをご報告いたします。そして、僕の心理として積極的に紙の本を出版する活動を今後するつもりがないことをお伝えします。そのようなわけで、電子書籍版のご利用をお願いします。以下ちょっと長くなりますがその理由です。
電子書籍 EPUB ファイルを作成する過程で、このエスコフィエの稀代の名著はそもそも内部参照の多い構造と文章になっているから「理解できる」ものにするにはリンク機能をつかえる電子媒体が最適で、コストのやたらとかかる紙媒体は不要との思いをますます強くしました。
120 年前にハイパーテキスト構造を内在させているともいえる書物を執筆、構成したエスコフィエとその協力者たちの慧眼には敬服するほかありません。ただ、その結果として、『料理の手引き』は全体を理解していないとレシピのひとつも理解できない、ひとつひとつのレシピを理解していないと全体を理解できないという、読者にとってはまことに不都合な、難解な名著になってしまっています。この問題を解消、乗りこえるには紙の本の場合、何回も繰り返し、ていねいに読む、熟読するほかありません。
紙媒体の本はたしかに、電気がなくても光さえあれば読める、火事や水害がなければ保存性も高いといった利点があります。なにより紙の書物はヨーロッパで600年以上作られてきた、そしていまも現存するものがあるという実績、歴史があります。ただ、どうしようもない欠点もあります。どんなにていねいに扱っているつもりでも、何回も読んでいるとぼろぼろになってしまうんです。
僕の手元にある『料理の手引き』フランス語原書は2回崩壊して綴じ直しました。英訳第五版は崩壊はしてないですが見た目がかなりボロくなっています。ちなみに学生時代から常用している『ロワイヤル仏和中辞典』は4代目。ぼろぼろに崩壊して修理を繰り返し、それでも3回買い替えています。
モノは使っていればボロくなります。使ってなくても経年劣化します。そういうものにコストをかけて、しかもリスクを負うことはできません。頭を下げたくないです。なので僕自身は電子書籍版の販売は熱心にしますが、紙媒体出版についてはこれ以上何もするつもりはありません。できることはすでにしましたので。どうぞご理解ください。
電子書籍版エスコフィエ『料理の手引き』EPUBファイル
メール添付のEPUBファイルをダウンロードして開く (iPad)
- iPad のメール.appで受信する。
- タップしてダウンロード
- もう一度タップして「ファイルに保存」……これでいちおう安心です。
- もう一度タップして「ブック」を探してタップ。
- 自動的にエスコフィエ『料理の手引き』が開かれます。タップ、スワイプでページをめくる。左上の横棒3本のアイコンが「目次」。
Apple のデバイスはどれかひとつで上を手順を踏むと、おなじiCloudアカウントの違うデバイスでも「ブック」を開くだけでダウンロードなどの作業は必要ありません(iCloudの設定でブックをオンにしている必要があります。また、High Sierra のような少し古いMacOSは同期されないので注意)。
iPhoneでも手順は同じです。なるべく新しいモデル、OSでの利用をおすすめします(動画はiPad第6世代9.7インチiPadOS15.7)
ブログを復活させたのでFBに書いた文をポストしてみる
学ぶこと(=本を読むこと)は思考をクリアにするためにも邪魔にしかならない、みたいな言説を見かけた。これってB*K*ってこと? B*K*がイキってじぶんがBa*Aだって告白してるの?
本を読んで混乱しちゃう程度の思考とはなんともお粗末な……とかつての僕なら思ったんだろうけど、そういう人こそ才能あるとか天才とかもてはやされてる現実を忘れちゃいけない。もう本を読む人なんて絶滅危惧種ですからね。
フランス語の本ですら https://www.ebooksgratuits.com/ とか https://gallica.bnf.fr/ で手軽に読める、まさに夢のような世界になったのに、いやだからこそ本を読む人を敵視したり、本の存在そのものを無視したりするのかも。それはそれでいいんですよ、焚書騒ぎとかしなければ。
でもそういう声に惑わされて、本すら読まずに努力の証しとか天才の称号なんかを欲しがるのはよろしくない。青い鳥はいままさに自分のそばにいる。見えないのは自分が裸の王様になってるかもしれないということ。
pandoc による epub へのフォント埋め込み
pandoc 用 defaults.yaml (フォントファイルを同階層に置く場合)
epub-fonts: - texgyrepagella-regular.otf - texgyrepagella-bold.otf - texgyrepagella-italic.otf - texgyrepagella-bolditalic.otf
style.css パスに小文字で ../fonts/フォント名 と書くのがポイント。欧文書体を活かすには font-family の指定で 欧文書体、和文書体の順で指定すること。
@font-face { font-family: "TeX Gyre Pagella"; font-style: normal; font-weight: normal; src: url("../fonts/texgyrepagella-regular.otf"); } @font-face { font-family: "TeX Gyre Pagella"; font-style: normal; font-weight: bold; src: url("../fonts/texgyrepagella-bold.otf"); } @font-face { font-family: "TeX Gyre Pagella"; font-style: italic; font-weight: normal; src: url("../fonts/texgyrepagella-italic.otf"); } @font-face { font-family: "TeX Gyre Pagella"; font-style: italic; font-weight: bold; src: url("../fonts/texgyrepagella-bolditalic.otf"); } body, p { font-family: "TeX Gyre Pagella", "ヒラギノ明朝 ProN", "HiraMinProN-W3", "游明朝体", "Yu Mincho", serif; }
分数は数式なので注意。
「エスコフィエの新解釈」
8月末に出た本ですが、僕は原書『料理の手引き』の抜粋の翻訳と注釈を協力させていただきました。 ソフトカバーですが豪華本といってもいいくらいの素晴らしい装丁と装本で、贈り物にも最適だと思います。 もちろん内容は、新進気鋭の若手からベテランにいたるまで料理人さんたちの創意工夫が盛りだくさん。読みこめば「応用力」が身につくことは確実です。