投稿者: Manabu GOTO

  • カーヴォロネーロのポレ

    カーヴォロネーロのポレ ©︎2023 Manabu GOTO
    カーヴォロネーロのポレ ©︎2023 Manabu GOTO

    ポレ porée はフランス中世の料理。葉野菜を溶けるまで煮込んだシンプルなポタージュ。いつまで加熱しても柔らかくならないと有名シェフでさえ文句を言うことのあるカーヴォロネーロがとろとろうまうまなポタージュに。

    ※圧力鍋を使います

    材料

    (6〜8人分)

    • カーヴォロネーロ 20枚
    • 玉ねぎ ½個
    • トマト(赤の濃いもの、なくてもよい)200g
    • カイエンヌ (とうがらし、種子は取り除く)½本
    • 豚肉(脂身の多いもの)200g
    • オリーブオイル 100mL以上(豚肉の脂身の量に合わせて加減していいが、たっぷり使うのがポイント)
    • 水 300mL
    • 塩 大さじ1
    • こしょう 適量

    作業

    1. カーヴォロネーロはよく洗う。コット(中肋いわゆる軸)を取り除き細かく刻む(千切り)
    2. 玉ねぎはスライスする
    3. 豚肉は適当な大きさに切って表面をこんがり焼く
    4. 圧力鍋にオリーブオイルを熱し、カーヴォロネーロと玉ねぎを炒める
    5. しんなりしてかさが減ったらこしょう以外のその他の材料を投入する。圧力鍋に蓋をして沸騰させ、圧力がかかった状態で弱火で1時間加熱する。圧力が抜けるまで放置する。
    6. 味を調え、こしょうで仕上げる。

     

    圧力鍋はメーカーによって加熱時間が異なります。1時間はラゴスティーナを使用した場合。ピースプレッシャーパンなどはより高圧になる傾向があるのでやや短時間になる。

    パンを浸しながらいただきます。バゲットをスライスしてこんがり焼きクルトンのように浮かべてもいいでしょう。

    トマト、カイエンヌは省いた方がより中世料理っぽくなります(おすすめ)。

    コット(中肋)を取らないと大根葉の炒め煮のような見た目になってしまいます。コットはとくに火が通りにくいのでどうしても使いたい場合は工夫してください。

    圧力鍋を使わない場合は4、5時間以上加熱する必要があります。

    状態のいいサヴォイキャベツの外葉を使うこともできます。その場合は油脂分を多めにするといいでしょう。

    ©︎2023 lespoucesverts Manabu GOTO

    ※レ プゥス ヴェール ごとう菜園のカーヴォロネーロはオンラインショップからお買い求めください

     

    カーヴォロネーロ ©︎2023 Manabu GOTO
    カーヴォロネーロ ©︎2023 Manabu GOTO
  • サヴォイキャベツにみる持続不可能性

    サヴォイキャベツ Piacenza 生育中 ©︎2023 Manabu GOTO
    サヴォイキャベツ Piacenza 生育中 ©︎2023 Manabu GOTO

    2023年に栽培しているサヴォイキャベツの品種はヨーロピアンサボイ(朝日工業)というのだけど、この品種はメーカー廃番になって久しい。次の「使い物になる」品種を探さなくてはいけない。そんなわけでググってみたら入手しやすいのは早生品種ばかり。

    日本の蔬菜園芸、野菜栽培業界の悪いところ。すぐ早生品種を使いたがる。そりゃ、早く出来上がるからコスト面で有利なのは確か。でも味とクオリティがねぇ……日本の種苗会社が開発した品種は変に手を加えられちゃってて、はっきりいって見た目だけ。ヨーロピアンサボイを気に入って使ってたのも、以前にメーカーの担当さんにしつこく尋ねたらイタリアの会社のものを「そのまま」つまり名前だけ変えて売ってるというから。

    ヨーロッパの種苗メーカーから小袋種子を輸入して販売しているところもあるけど、そこの扱い種子は管理が悪いのか発芽しない確率が非常に高い。経験的に「発芽すればラッキー」くらいの感じ。だから種子寿命の短い品目は避けたほうが無難。サヴォイキャベツ の場合、晩生のF1品種がいいんだけどいままでのところラインナップは固定種がメイン。

    となるとヨーロッパの種苗店から直接買えばいいんだけど、日本政府による植物検疫法の運用がとても厳しいから生産者個人での輸入は絶望的。なにしろ検疫を通すために必要な書類だけで50〜100ユーロはかかる。種苗店に書類を作ってもらうんだけど、小ロットだとかなり嫌がられる。断られたこともある。

    というわけで現状ほぼ手詰まり。いずれは「まともな」サヴォイキャベツを日本国内で作れなくなるだろう。

    いまの日本ではフランス・イタリアで一般的なヨーロッパ品種の野菜なんてほぼ見向きもされないのが現実。なにしろフランスの超大物シェフが広告塔なんだか采配をふるってるんだか知らないけどそのシェフを全面に出したイベントで「和食材」がもてはやされるというかイベントの参加条件にされちゃってるくらい。

    政府機関をはじめ皆さんSDGs大好きみたいだけど、少なくともヨーロッパ品種の野菜を日本で栽培して高品質なものを提供するってのはその対象外なんだろう。僕の領域に関してだけだがちっともサスティナブルじゃない。

    ま、サヴォイキャベツに関しては冬はヨーロッパ、夏はオーストラリアから大量生産品が空輸されてる。大規模農業は環境負荷がとんでもないし、空輸なんてフードマイレージがすごいことになってるんだけどね。あるいは、副業的に「おしゃれ野菜」を作ってる野菜生産者が直売所などにアホみたいに安価に出してるから、「高品質」にこだわらず見ためだけ整ってればいいってことなんだろう。

    こういう状況を変えるのはやっぱり「数の力」。とりあえずはいま販売しているサヴォイキャベツだけでも売れてくれるといいんだけど……

    画像はPiacenzaという晩生、固定種。発芽率は悪いし生育も不揃い、形質もなんかバラバラ。完成までまだまだだけど、ここまでの印象は最悪。(20230813)

    ©︎2023 Manabu GOTO

  • カーヴォロネーロ

    Cavolo nero ©︎2023 Manabu GOTO
    Cavolo nero©︎2023 Manabu GOTO
    • フランス語名 chou palmier
    • イタリア語名 cavolo nero
    • 英語名 Lacinato kale, Tuscan kale, Italian kale, dinosaur kale, kale, flat back kale, palm tree kale
    • 日本での別名 黒キャベツ、カーボロネロ

    結球しないキャベツの仲間(非結球キャベツ)でサヴォイキャベツのように葉が縮れています。近年は葉が幅広のものも少なくありませんが、細長い形状が一般的です。ブルームが強く、滑らかな質感です。

    イタリア、トスカーナの地方料理リボッリータがとりわけ有名です。とても煮崩れしにくいのでむしろそれを長所として生かすのがいいでしょう。

    細長く縮れた葉の「見ため」にとらわれないのが調理を成功するためのポイント。

    カーヴォロネーロ Cavolo nero ©︎2023 Manabu GOTO

    カーヴォロネーロ Cavolo nero ©︎2023 Manabu GOTO

    (©︎2023 lespoucesverts Manabu GOTO)

     

    ¥900¥3,600 (税込)続きを読む

  • サヴォイキャベツ

    サヴォイキャベツ
    サヴォイキャベツ
    • フランス語名 chou vert, chou de Milan
    • イタリア語名 cavolo verza
    • 英語名 savoy cabbage
    • 学名 Brassica oleracea
    • 日本での別名 ちりめんキャベツ

    フランスやイタリアでたんにキャベツ chou, cavolo というとこのタイプを指します。日本で一般的なキャベツはむしろザワークラウトなどの漬物用かコールスロー用と認識されることが多いようです。

    長時間加熱しても煮崩れないのが特徴ですが、逆にいえば柔らかく調理するには長時間の火入れが必要で、古いレシピでは下茹でに1時間、ブレゼに2〜3時間かけるよう指示されています。

    ただし、厳冬期に強い霜にあたったものはとても早く火が通るので、これを利用してあらかじめ冷凍庫で凍らせてから調理すると火入れ時間は格段に短かくすることができます。

    日本の種苗会社では白菜の育種素材(交配材料)として用いられているそうです。葉の縮れが強く内部が黄色い黄芯白菜の多くには交配によりサヴォイキャベツの遺伝子が入っているらしいです(伝聞なのはどの種苗メーカーも育種の詳細を社外秘にしているため)。このため日本の種苗会社のサヴォイキャベツの品種は葉の縮れと内部の色合いにフォーカスをあてて開発されており、ヨーロッパで伝統的なサヴォイキャベツの味わいは残念ながら犠牲になっているようです。

    ヨーロッパはもちろん、アメリカ大陸、オーストラリアでもサヴォイキャベツは大規模機械化栽培が進んでいます。したがって、輸入品はほぼ確実に大量生産品です。

    ごとう菜園のサヴォイキャベツは播種、水やり、施肥、定植、防除、収穫すべて手作業です。宅急便での配送を考え、きれいでなおかつ小さく作れるぎりぎりのサイズに仕立てています。日本のフランス・イタリア料理で使いやすいことを念頭に試作を重ねて品種選定をしています(2023年はヨーロピアンサボイ90、メーカー廃番のため種子の寿命がきたら再度品種選定します)。

    自信をもってお勧めできる高品質のサヴォイキャベツです。ワンランク上の料理を目指すキュイジニエ、クォーコの皆様はぜひお試しください。他と一線を画す皿になります。

     

    エスコフィエ『料理の手引き』のレシピ(おもなもの)

    • スープ・アルビジョワーズ
    • スープ・フェルミエール
    • ガルビュール・ベアルネーズ
    • スープ・グランメール
    • サヴォイキャベツのポピエット
    • ソシス・キャベツ添え
    • フザン・シャルトルーズ
    • ペルドロー・シャルトルーズ
    • ペルドリとキャベツ
    • キャベツ・アングレーズ
    • キャベツのブレゼ
    • キャベツ・ファルシ
    • スーファスム・プロヴァンス風
    • ガルニチュール用キャベツ A B C

    ¥3,800 (税込)続きを読む

    ©️2023 lespoucesverts Manabu GOTO

  • ビーツ キオッジャ

    ビーツ キオッジャ
    ビーツ キオッジャ
    • フランス語名 betterave Chioggia
    • イタリア語名 barbabietola Chioggia
    • 英語名 table beet Chioggia

    ビーツのなかでもクセのない甘さでとても食べやすい品種です。ヴェネツィアに近い地名オッジャを冠した地方品種です。

    切り口が紅白のきれいな年輪状であることからかつて日本でも流行りましたが、生のまま薄くスライスして料理の飾りにするようなひどい使い方がはびこったためにしばらく栽培をやめていました。きちんと加熱調理すればとても美味しく、色合いもどぎつい赤ではなくオレンジがかった薄いピンクの綺麗な色合いになります。

    下処理はよく洗ってからアルミホイルで包んで、180〜200℃のオーブンに入れます。200gあたり50分程度加熱してください。火入れしたら皮は手で簡単にむけます。シンプルにオリーブオイルとバルサミコ酢、塩で食すのも美味です。

    ビーツ キオッジャの下処理
    ビーツ キオッジャの下処理
    アルミホイルで包み200℃のオーブンで50分加熱したビーツ キオッジャ
    アルミホイルで包み200℃のオーブンで50分加熱したビーツ キオッジャ
    • ビーツの塩釜焼き(アラン・パサールによって有名になったとてもシンプルなレシピ。リンク先はキオッジャを使用しているようです)

     

  • グリークバジル

    グリークバジル
    グリークバジル
    • フランス語名 basilic grec
    • イタリア語名 basilico greco, basilico fino a palla
    • 英語名 greek basil
    • 学名 Ocimum basilicum
    • 日本での別名 バジリコナーノ ブッシュバジル

    スイートバジルと比べて一枚一枚の葉がとても小さく、香りもさわやかなバジルです。

    ※バジルは急激な温度変化に弱いので基本的には涼しい場所で常温保存してください。どうしても冷蔵保存する必要がある場合には新聞紙などでくるんで冷気の弱い場所を選んで保管してください。

    ※比較的容易に鉢植え、プランター栽培できます。トキタ種苗「バジリコナーノ」の商品名で小袋の種子が市販されています。

  • アリコブール

    アリコブール
    アリコブール
    • フランス語名 haricots beurre
    • 英語名 yellow wax beans
    • 学名 Phaseolus vulgaris
    • 日本での別名 アリコブール、バターいんげん、黄色いんげん

    さやいんげんのうち、薄い黄色に仕上がる品種です。細くて柔らかいうちに収穫可能な品種 Minidor を使っています。

    基本的な使い方は緑色のアリコヴェール haricots verts と同様です。さやの上下をハサミ等で切り落としてから柔らかく下茹でしたのちに調理します。日本で一般的なさやいんげんと比べ、柔らかくて甘みがあり、とても美味です。皿に盛り付けたときの見栄えもいいです。

    アリコブールの花
    アリコブールの花
    アリコブールのさやははじめ緑色
    アリコブールのさやははじめ緑色

    ©︎2023 lespoucesverts Manabu GOTO

  • ルーコラ・セルヴァティカのスパゲッティ(お手軽バージョン)

    spaghetti con rucola selvatica

    ルーコラ・セルヴァティカのスパゲッティ(画像は2人分)

    野菜農家の直売アイテムとしてひっそり定着した感もあるルーコラ・セルヴァティカ。ごまを思わせる強烈な香りと独特な風味で知られ、サラダや皿の『あしらい』的に使われることも多いようだ。

    ただ、強い香りと風味は刺激になるからあんまり大量には食べられないのが難点。ビタミン豊富な葉野菜だからたっぷり食べたいところ。

    この野菜のポイントは

    • 加熱すると香りと風味が瞬間的に失われる
    • 抽苔茎(花がつく茎)は固くて食べられたもんじゃない
    • 黄色い花はルーコラらしい風味があって美味(1人分)

    1人分の材料

    •  ルーコラ・セルヴァティカ 50g
    • トマトソース
    • スパゲッティ 70〜100g
    • 塩、こしょう

    作りかた

    1.  ルーコラ・セルヴァティカは水でよく洗う。柔らかい小さな葉は別に取り置く(ポイント!)のこりは2cmくらいの長さに刻む
    2.  パスタを茹でる。トマトソース (グーグル検索)をつくる。
    3.  スパゲッティが茹で上がる30秒前に刻んだルーコラを鍋に投入。パスタの茹で上がりは固めにするといい。
    4. スパゲッティとルーコラをザルにあけ、トマトソースのフライパンに投入。よくあえる。
    5. 生の柔らかいルーコラの葉をトッピング(大事なポイント!)

     

    ※ようするにスパゲッティ・トマトソースにルーコラを加えただけ。レトルトのトマトソースを使ってもいいが仕上がりはそれなりだろう。逆に言うと美味しくつくるには手際とセンスのよさがとても大事。

    ※トマトソースは一人あたりトマト水煮缶50g+にんにく ¼片(スペイン産)+とうがらし(カイエンヌにかぎる)¼+オリーブオイル+塩、こしょうでつくった分量が目安。不思議なことに、トマトが主材料にもかかわらずにんにくととうがらしで決まる。

    ルーコラ・セルヴァティカ
  • エルバステッラのフリッタータ

    frittata con erba stella minutina

    どうしていいのかわからない、皿の飾りにしかならないという声もちらほら耳にするエルバステッラ。もとはイタリアのものだから、プロとはいえフランス料理が専門だといたし方ないのはしょうがないのだろう。

    だがイタリア料理はフランス料理の近接領域。いまやルーコラ・セルヴァティカがあたりまえにフランス料理で用いられているのだし、エスコフィエ『料理の手引き』ではパスタとリゾットに相応のページを割き(原書で計8ページ)、ダンバルにフォンセ生地ではなくマカロニを使ったり、イタリア料理由来のレシピを数多く収録されてるくらいだ。

    エルバステッラは日本の種苗会社が小袋の種子を販売してるからそこそこ日本でも知られるようになったかと思いきやあいかわらずまったく無名の様子。甘くておいしいといったたぐいのものじゃないから葉菜としてメインストリームにはのれそうにないけど、独特の歯ごたえと風味を愉しむ、いってみれば余裕のある都市生活者だからこそ田園や田舎に惹かれるような、魅力ある野菜として認知されることが願われる。漢方薬や健康食品の原料として用いられるオオバコの一種だからそういうイメージを付加することももちろん可能だろう(個人的にあまり好きな手法ではないが)。

    さて、美味しく食べる方法だ。若くて新鮮な葉はそのまま生でサラダのいいアクセントになるが、ポイントをおさえれば簡単に前菜1皿仕上がる。以下はその一例。ちょっとやそっとの加熱でエルバステッラ独特の歯ごたえが失われることはないので、多少雑にやっても大丈夫。

    (2〜4人分)
    * エルバステッラ 50g
    * 全卵 4
    * 塩、こしょう 適量
    * 粉チーズ 適量
    * オリーブオイル 適量

    1. エルバステッラはよく水洗いして、沸騰した塩湯で下茹でする(塩1%)。再沸騰したら取り出してザルにあける。
    2. 冷めたら適当な長さに切る(1cmくらい)
    3. 卵を解きほぐし(できたら網で漉す)、エスバステッラ、塩、こしょう、粉チーズを加えてよく混ぜる。
    4. フライパンにオリーブオイルを引いて卵液を流し入れる。
    5. 蓋をしてごく弱火で加熱する(オーブンに入れるといい)。オーブンを使わない場合は適当なタイミングで裏返して蓋をし、ふんわり火を入れる。

    ※ポイントは下茹で。手抜き料理とはいえこれだけは絶対に省略しないこと。
    ※キッシュのアパレイユのように、卵液に生クリームなどを加えてもいい。
    ※いまどきの「甘くておいしい」ような葉野菜ではないのでそういうのを期待するひとにはおすすめできない。独特の歯ごたえと野趣あふれる風味、つまりいまどきの葉野菜にない「草」な感じを楽しんいただきたい。(©2023 Manabu GOTO)

    エルバステッラのフリッタータ©2023 lespoucesverts Manabu GOTO
    エルバステッラのフリッタータ©2023 lespoucesverts Manabu GOTO
    エルバステッラのフリッタータ©2023 lespoucesverts Manabu GOTO
    エルバステッラのフリッタータ©2023 lespoucesverts Manabu GOTO
    エルバステッラのフリッタータ©2023 lespoucesverts Manabu GOTO
    エルバステッラのフリッタータ©2023 lespoucesverts Manabu GOTO
    エルバステッラのフリッタータ©2023 lespoucesverts Manabu GOTO
    エルバステッラのフリッタータ©2023 lespoucesverts Manabu GOTO
  • 野菜つくりのこだわり

    大切にしているのは手段を目的化しないということ。有機でも減農薬、無農薬でも本質的には手段あるいはその手段によってもたらされる結果に過ぎないと考えています。近代有機農法の創始者とされるイギリスのアルバート・ハワードは著書『農業聖典』An agricultural testament (1940)において、赴任先インドでの農業生産力向上に取り組み、その過程で堆肥を積極的に使用することで生産高が上がるから窒素肥料など不要でしかも病虫害にも強い作物を栽培できると記しています。「有機」はあくまでも生産性向上のための手段のひとつだったわけです。ところが現代では「有機」であることそれ自体がまるで目的になっているかのような状況が多々あります。

    僕の野菜つくりの目標、目的はフランス料理、イタリア料理の文脈に沿った、プロの調理技術に応えられる食材としてのおいしい野菜です。有機、無農薬、減農薬、自然農法などを目的にはしません。

    西洋料理のためのおいしい野菜を実現することを目標に、いろいろこだわっています。

     

    1.野菜品種にこだわる

    野菜の品種による違いは一般に思われている以上に大きいです。ヨーロッパの固定種中心、ただしF1は否定しないという方針で栽培品種を選定しています。ゆっくり生育させたほうがおいしくてクオリティの高い野菜ができるので、早生品種よりは晩生品種が中心です(つまり栽培に時間がかかります)。

    2.栽培方法にこだわる

    雨よけハウス……季節を乾季、雨季でいうならフランスなどは夏に乾季、冬に雨季です。つまり日本と逆です。高温期に雨の多い日本でフランスとおなじように野菜をつくることはできません。見た目はどうにかなっても味、香りの面でクオリティが落ちてしまいます。このため、水分コントロールしやすい雨よけハウス栽培を基本としています。無加温のポリハウスなのでフランス語だとgrand tunnel(大トンネル)と呼ばれるものに相当します。

    肥料……科学的に立証されてはいないと思いますが、化学肥料とりわけ窒素などの単肥は微量成分とのバランスを崩し、味に影響をおよぼす気がしています(あくまで個人の主観です)。だから施肥は鶏ふん、油かすなどの有機質肥料と苦土石灰です。いわゆる化学肥料は使いません。

    病害虫防除(農薬)……有機リン系およびピレスロイド殺虫剤は使用しません。単純に、僕自身がこれらの農薬の臭いが嫌いだし、気分が悪くなるからです。使用する農薬はもっぱらBT、スピノサド、ボルドー(いずれも有機JAS許容農薬)。どんな場合でも農薬取締法を遵守しています。

    3.収穫タイミングと鮮度にこだわる

    品目、品種、季節によって違いますが、野菜の美味しい収穫適期はとても短いです。また、ほとんどの野菜は収穫したてがおいしいです。収穫後日数が経てばそれだけ美味しさは失われます。ぼくのつくっている野菜で言えばフレーズデボワフレーズデボワエストラゴン、プティポワ(2023年は栽培なし)など代表的です。これらはきちんと冷蔵していても収穫後3・4日が限度と考え、到着後3日をめどに使い切るようご案内しています。また、レストランむけ定期便の場合は週2回のお届けをお勧めしています。

    4.知識にこだわる

    最大のこだわりポイントです。上の1〜3の内容は突き詰めればすべて「知識」です。15年以上にわたる野菜つくりの経験や試行錯誤で得た知識、フランス語の農業書や園芸の本などを手あたり次第に読んで学んだ知識です。もちろん料理の知識も大切にしています。どんな調理によってどのような味わいの料理になるかを知らずに食材を作ることはできません。各取引先のシェフにどんな品目を使いたいか、野菜の出来はどうだったか、どんな料理にしたのか、食べ手の反応はどうだったかなどを聞き、「協同」して野菜をつくっています。