「専門料理」連載「エスコフィエを読む」2013年5月号「ポワレ」の補足記事です.

訳注でも書きましたが,ひょっとしたら『ル・ギード・キュリネール』でもっとも理解しにくい部分かも知れません.こんにち一般的な「ポワレ」の意味,つまり「(魚の切り身などを)フライパンで焼く」とはまったく違います.

困ったことに,『ル・ギード・キュリネール』ではこの「ポワレ」がとても多いんです.例えば牛フィレ (pp.423-429).全部で45のルセットがありますが,そのうち何と25に「ポワレ」の指示があります.そのさらに半数近くは「ポワレまたはロティールする」となっています.

この「ポワレまたはロティールする」というのは重要ポイントです.『ル・ギード・キュリネール』ではポワレとロティールというのは非常に近い性格のものだということを表してるんです.

というわけで,5月号 p.114 をもう一度よーくお読みください.『ル・ギード・キュリネール』ではあくまでも,ポワレはロティの一種なんです.このあたりをしっかり押さえておかないと,『ル・ギード・キュリネール』の他のページでとんでもない読み間違いをしてしまうことになります.その結果「『ル・ギード・キュリネール』なんて古すぎで実際に料理出来ないじゃないか」などというイチャモン,いえ本当のところは無知を公言するようなことを言い出しかねない… とっても恥ずかしいことなんで気をつけましょうね,未来のシェフの皆さん (^ ^

『ル・ギード・キュリネール』のポワレでもっとも重要なポイントはマティニョンを使うことです.19世紀までは,このマティニョンに相当するものを「ポワル」poêle と呼んでいました.「フライパンの中身」というのがもともとの意味です.だから,このマティニョンは単に香味野菜を切っただけのものじゃなくて,ちゃんと予め加熱したものを使うのが原則です.

『ル・ギード・キュリネール』では加熱の際に水分を加えないと強調されていますが,実はカレームあたりだと水分を加えちゃったりします.水分を加えたらブレゼと同じじゃないか,とも思いますが,目指す火入れがそもそも違いますし,ソースとの関係もまったく違うわけですから,同じということにはならないでしょう.

『ル・ギード・キュリネール』のポワレは絶滅危惧種(?)みたいに言われることもあるようですが,今回訳出した「仔鴨のエギュイエット ビガラード風味」もポワレなんですよね.そういう意味では完全に廃れてしまったわけでもないと思います.まぁ,コストや作業効率などの関係でいろいろ簡略化せざるを得ないんでしょうが…