16世紀(4)
2017/02/07 00:23p.XX(4)=p.XXI(1) ゴドゥル版のタイユヴァンに追加された9ページのレシピや、現存するいくつかの献立の記録からは、16世紀初頭の料理が14世紀のものとそっくり同じだったということが分かる。いっぽう、建築や装飾の分野では既にイタリアの影響による変革が始まっていたわけだが、『正しい悦よろこびと健康について1』という本によって、料理においても大きな影響を受けることになる。著者はバティスタ・プラティナ・ディ・クレモナという筆名で知られる歴史家バルトロメオ・サッキ2。教皇パウロ2世の時、トラブルに巻きこまれてしまったが、その結末は学識豊かではあるけれど血なまぐさい内容の『教皇伝』に記されている。
16世紀(3)
2017/02/04 18:24p.XX(3) パリの印刷業者ピエール・ゴドゥルが「王家、大公家、その他のお屋敷の用に供するもの」として刊行したタイユヴァンの再版(出版年記載なし)の紙片G4裏面に「こんにちまでタイユヴァンの本に収められていなかったポタージュのレシピを多数追加」とある。ゴドゥルがパリで印刷業を営んでいたのは1514年から1534年までのことである。9ページにわたって新たな追加分のレシピを書いた料理人は、シャルル5世付きの大料理長1に負けず劣らず香辛料を好んで使っている。レシピはひどく衒学的でリムーザンの学生2を思い起こさせる文体で書かれている。しばしば「食材が何だかわからないよう加工」する。また、鱒の卵が「えんどう豆の味とよく似ている」と断言したりもする。「ヴェルシューズという名称のポタージュ」はやたらと香り付けしたクレーム・キュイットである。しかし、この追加されたレシピでも、アピキウス同様に、ぶどう果汁と火を通したワインを料理に用いていることに注意しておきたい。
16世紀(2)
2017/02/04 00:24p.XIX(4)=p.XX(1) ヴェラール版の第一部は紙片a2〜h4までである1。内容は、肉、野菜、果物、飲み物について述べた食餌療法論だ。ラ・シェネはレシピをひとつも書いていない。食べ物が人間の身体に及ぼす影響について論じている。ちなみに、「人の身体を統べるもの」では惑星の動きが及ぼす影響について述べている。ミルク2は「重要な物質であり、とても良い食べ物」であり、「生のバターはあらゆる毒に対して解毒作用がある」。卵白は「消化に悪く」、卵黄は「心臓の働きを驚くほど強くする」。砂糖には「緩下作用と清浄作用がある」。「塩漬肉を継続的に摂れば、おねしょに良く効く」。動物の目は「よく肥った獣の、柔らかく脂に覆われたものなら冷たくて湿っているので、とてもいい食材だ」。チーズは「食後に少量食べるのであれば、胃の噴門を強くし、活発化させる」。まるでガレノス3の著書を読んでいるみたいではないか
16世紀(1)
2017/02/02 23:03p.XIX(3) 『健康の函はこ』という匿名で著された本がある。匿名なので、デュ・ヴェルディエ1の書誌では、コメントなしに “Nef” の項に置かれている2。19世紀になってようやく、この本のプロローグ末尾にある18行詩の各行最初の文字が注目されるようになった。当時の慣習からいっても、この行頭の文字列は作者名のアクロスティシュ3である。作者の名はニコル・ド・ラ・シェネ4。
中世(20)
2017/02/01 19:44p.XVIII(10)=p.XIX(1) ルイ9世1の妃マルグリットの母、ベアトリクス・ド・サヴォワの求めにより、1256年、医師アルドブランディーノ・ダ・シエナが『健康を保つための本』を著した。これは内容を改変され、1480年にリヨン2で出版された3。著者名は「フランス国王の侍医アルドブランダン師」となっていた。この本では、香辛料の利用が強く薦められている。
中世(19)
2017/01/31 21:37p.XVIII(2-9) タイユヴァンの手稿本から、当時使われていた香辛料のリストを引用しておく。 この料理書で必要な香辛料は… 生姜、シナモン、クローヴ、グレーヌ・ド・パラディ【原注2】ポワーヴル・ロン1、ラヴェンダー、こしょう、シナモンの花、サフラン、ナツメグ、ローリエの葉、ガランガル2、マスティック3、ロール4、クミン、砂糖、アーモンド、にんにく、玉ねぎ、シブゥル、エシャロット。
中世(18)
2017/01/31 00:34p.XVII(2)=p.XVIII(1) とはいえ、肉の風味をマスキングするもっとも簡単で、よく用いられた方法は、香辛料を使うことである。これまでの内容と、このページの脚注で引用してあるレシピ【原注2】を見れば、香辛料が16世紀までどれほど重要視されてきたか分かるだろう。この点でも、中世料理のレシピは、こんにちに伝わっているアピキウスとほとんど変わらない。アピキウスに名を冠した料理1のあるコンモディウス2やウィテリウス3は中世にいなかったし、アピキウスの料理書が印刷されたのは15世紀になってからのことに過ぎないにもかかわらず、だ【原注1】。
中世(17)
2017/01/29 23:22p.XVI(2)=p.XVII(1) 曲芸師の類が呼ばれるのは豪奢な宴会だけだったし、孔雀や大きな砂糖菓子は貴族の屋敷の宴で供されるだけだった。しかし、料理の作り方はブルジョワの屋敷でも大公の屋敷でも同じだった。素材をマスキングしたり、違うものの見た目に仕立てるということが一般的に行なわれていた。タイユヴァンは、タンシュとうなぎ、あるいは仔牛の頭を足の肉を使って、ちょうざめの姿に仕立てる方法を記している。フロワサールは1380年ごろの宴会の様子を書いているが、「もとの素材が何だか分からないほど珍妙に加工された」料理が山ほど供されるのだという【原注21】。スペイン料理のように、塩味と砂糖の甘味が共存していた。こんにち我々が肉に塩で味つけするように砂糖を使っていたのだ。しかも、カレーム2なら髪を逆立てて怒るような食材の組み合わせをしていた3【原注1】。
中世(16)
2017/01/28 17:58p.XVI(1) この豪華な献立からは、野菜料理が重視されなかったことがわかる。我々の祖先は野菜料理はたまにしか食べなかったのだ1。しかも、えんどう豆、そら豆2、ポワロー、ビーツ3くらいしか使わなかった。野菜はもっぱらピュレかポタージュにして供されるが、「メ」と上手く調和してはいなかった。ところで、食器や皿のしつらえについては、こんにち我々が想像する以上に客の興味を引いたのだった。宴の終りには、皿の中身よりも「アントルメ4」の時間に見た、さまざまな仕掛け、戦の寸劇、ダンスなどの余興のことを覚えているに過ぎなかった。年代記作者も回想録の作者も、宴席のそれ以外のディテールについては書き残してはいない。また、立派な正餐の席では必ず、白鳥や孔雀の「ルヴェチュ」【原注1】が供された。孔雀を切り分ける前に、屋敷の主人が大胆に戦うことの誓いや愛の誓いの言葉を述べることもあり、「孔雀の誓い」と呼ばれた。これによってますます宴たけなわとなるのだった。
中世(15)
2017/01/28 00:03p.XV(3-8) 16世紀中頃まで、料理は今日のようにそれぞれ別の皿に盛られるのではなく、1回のサーヴィス1で供される料理をいくつも、一枚の大皿にまとめて盛られていた。これを当時は「メ」metsと呼んでいた。だから、いろんなローストを皿に山盛りにしたのが一つの「メ」だったわけで、ソース各種が別添で供されたのだった。一枚の大きな深皿に肉料理と魚料理と野菜料理を山のように盛り込むことが当たり前に行なわれていた。このひどいサルミゴンディ2状態の皿も「メ」と呼ばれていた。つまり中世では「メ」という言葉は(後世の)「サーヴィス」と同じ意味だったのだ。
中世(14)
2017/01/27 21:51p.XIV(3)=p.XV(1) ピション男爵による『ル・メナジエ・ド・パリ』校訂版には付録として、ド・ルーベ侯の料理人であったオタンなる人物が書き送ったとされる「肉、魚のいろいろなブルーエの作りかた」が収められている。トゥルヌソル1を加えて作る「桃の花のブルーエ2」のごときひどく珍妙なソースは別として、オタンはクレーム・キュイットのレシピ3もいくつか記しており、それらは覚えておくだけの価値があるものだ。
中世(13)
2017/01/27 19:26p.XIV(2) オリジナルの手稿本(原注1)では、グリゼリディスの物語1、ジャン・ブリュイヤンによる富と貧困についての長詩の後に、とても念入りに書かれた料理のページが続く。これはタイユヴァンと『料理全書』が下敷になっている。老ブルジョワは先人のレシピに手を加え、若妻が使いやすいよう注釈をつけている。タイユヴァンとは砂糖に対する嗜好が違う2とはいえ、香辛料の使用については負けずとも劣らない。いくつか面白いこともしている。例えば、エクルヴィスと魚を油で揚げる(エクルヴィスのグラヴェ3)とか、「アルブゥラートル」なるチーズ入りタルトの両面を同時に焼こうと、料理が入っているフライパンの上に、火を起こした炭を入れたフライパンをのせる、など。とはいえ、このアマチュア料理人の姿は、あの時代の食道楽としてはそんなに馬鹿にしたものではないように思われる。彼はこう書いている。「兎は、冬は一週間くらい経ったものが美味しい。夏は4日ほどがいいが、日光に当たらないようにしてやること」。古代ローマの農学者テレンティウス・ウァロ4の著作にならい、「野兎の年齢は、尻尾の下の穴の数と年齢が同じだから、それを見れば分かる」と述べる。「鯉はよく火を通すべきだ。さもなくば食べるのは危険だ。黄色や赤っぽくない、白い鱗の鯉は、水のいいところのものだ。目玉が大きく、頭から飛び出しそうになっていて、口蓋と舌が柔く貼り付いているのは脂が多い…。森鳩は冬が美味…。鱒は冬が美味しく、サーモントラウトは夏。鱒でもっとも美味しいのは尾の方で、鯉の場合は頭。アローズ5は3月にシーズンとなる」。